第2話 ヤンデレ、不知火さん①
「林くん。なんで、昨日途中からメッセージ返してくれなかったの……?」
「うわっ! 急にどうしたの、不知火さん」
「返信こなくなったから……なんでかなって」
「ごめんごめん、昨日途中で寝ちゃってさ」
「そう……いいの。私とのやり取りがつまらなかったんだよね……ごめんね。私がつまらない女だから、林くんに退屈な思いさせちゃうんだよね。こんな価値のない女、いなくなった方がいいよね。今から屋上に行って、私飛び降りて……」
「え!? ちょっと、誰か! 先生呼んできて! と、とりあえず、今から警察と親御さんも呼ん――」
「冗談です。警察とか親は勘弁して下さい」
連絡先を交換したあの日から、俺たちのメッセージのやり取りが始まった。そして、文章での不知火さんは至って普通の女の子だった。
当たり障りのないやり取りをしつつも、俺達の関係は徐々に深まっていた……が、謎の気恥ずかしさがありお互い学校内では話しかけられない日々が続いていた。
そして、ある日の放課後。帰宅しようと廊下を歩いていると、不知火さんに急に後ろから話しかけられ、冒頭へと繋がる。
「なんだ、冗談か。不知火さん、そういう冗談は言っていいことと、悪いことがあるんだよ」
「いや、うん。おっしゃる通りなんだけど……毎度ごめんね。ちょっと待ってね」
そして、またしても彼女は俺に背を向け、持っていたカバンから何かを取り出し読み始めた。
「あっれー? また私何か間違えた? ……リアリティが足りなかったかな。本当にやるかやらないかの危うさと陰気さが大事だって書いてあるし……いや、やると思われたから通報されそうになった訳で、そういう問題じゃ……」
「あのー、不知火さん?」
「ひゃ、ひゃあい!?、」
また、この流れだよ。
慌てながら振り返った不知火さんが持っていたのは案の定雑誌だった。
"その危うさが愛おしい! モテ系、ヤンデレ女子の極意!"
あー、これまた面倒臭いのに手を出してらっしゃる。
「ど、どうしたの? あ、えっと……な、馴れ馴れしく呼ばないでよね! あ、違う違う。今回はこれじゃない。えー……林くん。今日、私以外の女の子と話してたよね……?」
「いや、話してないけど」
「ねえ、なんで他の女の子と仲良くするの……?」
「いや、特に仲良くもしてないけど」
「……チッ、ちょっと待ってね。暇だったら携帯でもイジってて」
「今、舌打ちしたね」
不知火さんはまたしても、俺の目の前で必死に雑誌を読み始めた。
「もう、なんでなんでなんで。このセリフ一押しって書いてあるけど、これ林くんが他の女の子と絡んでなきゃ使えないじゃん。いや、でも他の女の子と話したり仲良くとかしてほしくないし……でも、そしたらこれ使えないし……ど、どうしたら……!?」
「あのー?」
「ひゃ、ひゃあうん!?」
だんだん、驚き方も面白くなってる。
相当切羽詰まっているな。
「今日も不知火さんなんかおかしいよ?」
「……そんなことないよ?」
「もしかして、雑誌参考にしてキャラ作ったりしてない?」
「そ、そそそそんなことなな、ないよー?」
「わかりやすいね」
不知火さんは、何事もなかったかのように手に持っていた雑誌を鞄にしまう。
一つ大きく深呼吸して、俯きながらボソボソと話し出した。
「ごめんね……私、可愛くないし。一緒にいてもつまらないよね」
「まだ、この流れやるんだ。そもそも、不知火さんは可愛いよ?」
「価値のない私なんていなくなった方が……え? かわいい……?」
「うん、不知火さん普通に可愛いし」
「か、かかかわいい!?」
「それに、色んな意味で愉快で面白いし」
「かわいくて、お、おもしろい……!? なな、なに?? これが、も、もしかして愛の告白!? ま、まだ心の準備が!!」
「しなくていいよ。告白してないから」
「わ、私がかわいくて!? 林くんと私が彼氏彼女の告白で! あわ、あわわわわ!?」
また始まったか。
でも、二回目ともなると少し慣れるな。
そして、この状態の不知火さんをこっちの世界に呼び戻す手段も知っている。
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