クラスの女の子が、俺にだけ濃いめのキャラ作ってデレてくる
フー・クロウ
第1話 ツンデレ、不知火さん
「か、勘違いしないでよね! べ、別にあんたのことなんか興味ないんだからね!」
「いや、別に興味もたれてるとか思ったことないから大丈夫です」
「え……えっと。ま、全くもって興味ないわけでもないんだからね!」
どっちなんだろうか。
彼女の名前は
「林くん、ちょっといい?」から、いきなり冒頭のセリフを吐かれた訳だが、意味がわからない。
高校に入学しもう三ヶ月ほど経つが、不知火さんとはまともに話したことはなかった。
要するに俺は彼女のことをほとんど知らない。でも、確実に言えることはある。
普段の彼女はこんな話し方をしていない。
「も、もしアンタが友達いなくて寂しいなら連絡先とか交換してあげてもいいんだからっ!」
「友達はいるし、特に寂しくもないけど。……連絡先交換したいってこと?」
「ハァ!? バ、バッカじゃないの!? 私は別にアンタの連絡先なんか知りたくないっつーのっ!」
「じゃあ、やめときましょうか」
不知火さんは悲しそうな眼差しを俺に向けつつ、眉毛をへの字に曲げている。
妙な沈黙が流れたあと、彼女は腕を組み何かを考え始めた。
「……ちょっと待ってね、林くん。あと、バカとか言ってごめん」
「え、ああ。別に大丈夫だけど……」
不知火さんは俺に背を向けて、持っていたカバンから何かを取り出したようだ。そして、一人で何やらブツブツと言い出した。
「あっれー、おかしいなあ。今の流れで完璧だったはずなのに……あー、声の抑揚とか表情が足りなかったかなあ。恥じらいつつもツンとした声の張りが大事って書いてあるし……」
「あのー、不知火さん?」
「ひゃ、ひゃい!?」
急に声をかけられ、慌てた不知火さんはそのまま振り返る。彼女が手にしていたのは、雑誌だった。そして、その表題が目に入る。
"絶妙なアメとムチ! モテ系、ツンデレ女子の極意!"
……まさかとは思うが。この人、マジか?
「ど、どうしたの?……あっ。な、何よ?? 馴れ馴れしく呼ばないでよね! ……あ、でも、林くん私の名前覚えててくれたんだ。えへ、えへへへへ」
キャラがブレすぎて、ただの情緒不安定な人みたいになってる。
「あのさ。普段の不知火さんって、そんな喋り方してないよね?」
「……してるよ?」
「授業中の発言とか、友達と喋ってる時とか。むしろ、控え目なタイプの印象だけど」
「……そんなことないよ?」
「いやいや、明らかに今日変なキャラ作って――」
「ななな、なによ!? 普段から私のこと見てるの!? こ、この変態!」
「見てるっていうか……」
「ふ、ふーん。ま、まあ、そこまで私に興味があるっていうなら見るくらい許してあげるけどね! ありがたく思ってよね!」
「いや、そんなに不知火さんのこと見てたこともないし」
「わ、私と連絡先交換したいなら最初からそう言えばいいじゃない!」
「そんなこと一言も言ってないんだけど」
俺の返答達に不知火さんの眉毛はさらにへの字に下がっていく。
「……またお時間とらせて申し訳ないけど、ちょっと待ってね。あと、変態とか言ってごめん」
「いや、まあ。いいけど……」
そのまま不知火さんは手に持っていた雑誌を俺の目の前で食い入るように読み始めた。もうこの人、全く隠す気ないな。
「もうっ、なんで? 口調も内容もこの本の通りにしてるのに……これですぐに連絡先ゲットって書いてあるのに。あっ、これかな? ツンのあとは必ずデレないとただの嫌なヤツになっちゃうので注意……って、デレってなに? デレデレするってどうすれば……ま、まさかほっぺにチューとか!?」
「あのー?」
「ひゃ、ひゃあい!!」
心臓が飛び出そうなレベルで驚いている。どれだけ自分の世界に入っていたのか。
「ど、どうしたの? ……えっ、もしかしてチュー待ちしてる!?」
「ちょっと落ち着こうか」
「そ、そういうのはちゃんと段階踏んでから……でも、林くんがどうしてもって言うなら……いやっ、でも! ど、どうしよう!?」
「こっちがどうしようなんだけど」
「チュ、チューするってことは、普通の男女の仲ではなくて……チューした時点で好き同士というか、か、彼氏彼女の関係!? あわわわわわわ!?」
完璧に暴走してるな。どうにかしてこっちの世界に引き戻さなければ。
「ほっぺにチューで! 彼氏に彼女が! 私と林くんで! あわ、あわわわ!!!!」
「ねえ、不知火さん。とりあえず、連絡先交換しようか」
「あわわわわわ……わ? わ、私と、連絡先交換……?」
「うん。ほら、携帯出して」
「え……なんか。本当にいいの?」
「まあ、なんだかよくわからないけど。とりあえず、俺と仲良くなりたくて不知火さんが頑張ってくれてるのは伝わってきたから。はい、これで完了」
「林くんの連絡先……」
ようやく、普段の不知火さんに戻った気がする。何を血迷ってこんな胡散臭い雑誌を鵜呑みにしてしまったのか。
不知火さんは、自分の携帯を嬉しそうに眺めている。
「林くん、ありがとう……その、なんていうか。あの、う……うれ、べ、べつ!」
「うれ? べつ?」
「べ、別に嬉しくなんかないんだからねええええ!!!」
不知火さんは顔を真っ赤に染め上げながら、全速力で廊下を駆けて行った。色んな意味で恥ずかしさが限界を迎えたのだろうか。
嵐が過ぎ去った後に一人ぽつんと取り残された気分だが、恥ずかしがる彼女の顔が可愛かったのでとりあえず良しとしよう。
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