第8話 ポトフと収入!

「らーん! らららーん! らららららーん!」


 ナギは楽しそうに包丁を振り回している。

 空を切る鋭い音が響く。


「あ、カメラ来た。ということは、ポトフできたってことよね? はやく行かないとね」


 ナギは一瞬の間に荷物をまとめ、走っていく。

 かなりのスピードが出ていそうだ。


「はい到着! ルル、ポトフできた?」

「はやかったですね。はい、どうぞ」


 木の器に盛り付けたポトフとスプーンを渡す。


「そこにレジャーシート引いてあるから、座って食べてくださいね」

「はーい!」


 ナギはポトフを受け取ると、とことこ歩いてレジャーシートに向かう。

 歩き方まで可愛いのは反則だと思う。


「いただきます!」


 スプーンが口に運ばれる。この瞬間はいつも緊張する。


「ルル、今日もとっても美味しいよ!」

「それはよかった。おかわりたくさんあるから、いっぱい食べてね」


 これで一安心。自分の分も器にとってナギの隣に座って食べる。


「今日もちゃんと成功できたみたいです」

「ルルはいつも失敗しないでしょ。今日も美味しいからおかわり!」

「はいはい」


 ナギの召使いとして彼女が満足するまできちんとおかわりを用意し、その隙間に食べる。

 結局ナギは30杯ほどポトフを食べた。


「もう満腹だよ。ありがとうね、ルル」

「いえ、満足いただけて嬉しいです。それより、先ほど倒した分のボーナスを取りに行きましょう」


 そう、ダンジョンでモンスターを倒すとそこから大量のアイテムが手に入るのだ。

 普通は倒した後そこでボーナスを待つのだが、今回は他に人がいないのでポトフを食べに戻った。


「あ。忘れてた! はやく採りに行かないと誰かに取られちゃう」

「誰も採る人がいないから大丈夫ですよ。こんな山奥の野菜系ダンジョンに来る物好きなんて私たちくらいです」

「それもそうか。まぁとりあえず、ニンジンを収獲に行こう!」


 ナギが行ってしまったので急いで荷物をまとめてついていく。


「おぉ、これは大量だね!」


 私が倒した跡に大量のニンジンが生えていた。

 それをナギが嬉しそうに収獲する。


「ここに入れてくださいね」


 私は大きなかごにニンジンを詰める。

 これだけあると二人で消費しきれないので必要分以外は換金しなければ。


「これで全部だね。あとはトマト!」


 トマトも同様に収獲するが、潰れてはいけないので比較的丁寧にビニール袋に詰める。

 ただ何しろ量が多くて大変だ。


「ふぅ。やっと終わった」

「大変でしたね」


 ナギも私も滝のように汗をかいた。

 ひたすらに疲れた。なのでそろそろ配信を終わろうと思う。


「では、今回の配信はここまで」

「ありがとうございました!」

「ばいばーい!」


 きちんと配信が終わったことを確認する。

 大丈夫そうだ。


「では、換金に行きましょう」

「いくらになるかな?」

「視聴者さんがいたら、予測してほしいですね」


 いつのまにか視聴者はゼロに。

 コメントがつくことはなくとも、一応いるように振る舞う。

 これは初めにナギに頼まれていることだ。その方がプロっぽいやらなんやら。

 とにかく換金所に行って野菜を買い取ってもらう。


──買い取り価格──

トマト:600円/Kg

ニンジン:300円/Kg


 ダンジョンでの換金は通常の取引価格と比べて2〜3倍ほど高い。

 ダンジョン産の野菜は味も見た目も整っており、健康に良いと人気だからだろう。

 今回はトマトが200Kg、ニンジンが10Kgだ。


「合計123,000円です」


 単調な機械音がダンジョンに響く。

 普通は5,000円稼げたら上出来のダンジョンで10万超え。

 だが周りに人がいないので誰も驚かない。


「今日も稼ぎますね」

「そこそこよ」


 そう言いつつもナギの顔は嬉しそうだ。


「では、帰りましょうか」

「ええ。明日も学校があるしね」


 ナギと手を繋いで外へ出た。このあと地獄の編集作業が待っているとも知らずに。

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