第6話 ナギが天才なんですよ

 親切設計の二人の配信。

 配信画面の端に化け物の詳細を表示する。

 さきほど襲われていた時はそんな余裕がなかったが、できる限り表示する予定だ。


──わくわく化け物図鑑!──

名称:トマト

体長:1〜2m

体重:300〜2700kg

 トマトに手足の生えた化け物。

 転がって押しつぶそうとする。

 皮の6割程を剥ぐことで倒せる。

 なお皮を剥いだあとの傷口から内部に取り込まれて窒息死する事故が多発しているので注意が必要。




「ポトフの約束、忘れるなよ!」


 ナギが勢いよく飛び出していく。

 そしてトマトを殴った。

 


 トマトの皮は地味に切れにくい。

 それこそ、包丁を研ぐ系の動画で比較対象に使われる程度には。


 それが化け物となった【トマト】の皮は武器を使ってもなかなか裂けない。

 それを素手でいったのだ。


「……配信初回から飛ばしますね」


 私は一人しか見ていないのにやりすぎなナギを見つつ、包丁で【トマト】の皮を切りつける。


 ナギに殴られた【トマト】の皮は力に耐え切れず、赤い汁を飛ばしてちぎれる。

 ナギはすかさず皮の隙間に手を入れ素早く剥いだ。

 【トマト】は夏場のソフトクリームのようにドロドロになって死んだ。


「この調子で行くよ!」


 ナギは勢いそのままに横から襲ってきた【トマト】に回し蹴りを入れる。

 一回転して傷口に手を入れ皮を剥ぐ。

 その皮を別の【トマト】に投げると同時に跳躍し、【トマト】の攻撃を避ける。


「あいかわらずナギは凄いですね」


 私はナギから少し離れたところで取りこぼされた【トマト】を処理する。

 普通、探索者は武器を使って戦う。

 私の場合は包丁だが、刀や槍を使う人もいるらしい。

 だがナギは違う。素手で戦うのだ。

 使ったとしてもその辺にある石ころくらい。

 こういうところがナギの天才らしさなのだ。


「終わったよ!」


 ナギがにっこり笑顔で手を振りながら駆け寄ってくる。

 そこだけ見れば可愛いが、飛び散った汁によって殺人鬼のようになっている。特に可愛い笑顔のせいで。


「後で洋服は洗濯しましょうか」


 私はナギの頭を撫でながら言う。本当に可愛い。


「そんなことよりポトフ! ポトフ食べたい!」

「わかってますよ。たくさん作るのでいっぱいおかわりしてくださいよ」

「あたい、ルルの作ったポトフなら何杯でも食べれる!」


 小食なナギが珍しくたくさん食べてくれるポトフ。

 ナギが材料をたっぷり採ってきてくれたので、山盛り作ってあげようと思う。


「じゃあ、今からポトフを作るので移動している間にレシピのメモの準備を!」

「画面から離れるのは良いけど、イヤホンかヘッドホンでお話聞いてて欲しいな!」


 ナギと私はトマトの液体を避けながら元いた場所へと移動する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る