第2話 ちー子
家の前には、車通りの多い片側三車線の自動車道が走っている。
通称は「
その大環のゆるい坂を五分くらい下って行き、左へと曲がる坂道をさらに下ると駅に着く。
ここは
家が何軒かかたまっていたけど、そのまわりは田んぼで、田んぼのまわりは林だった。
小学校のころ、男の子女の子混ざって「たんけん」に来たことがある。
林のなかに神社があって、その神社の境内で遊んでいたら、帰り道がわからなくなった。
お調子者の男の子がいて、「まんなかから見れば帰り道が見える」と言って飛び出し、田んぼに侵入して泥に足を取られて動けなくなった。ちー
その田んぼの持ち主だという農家の夫婦に見つかって怒られた。
子ども二人に大人二人で、言いわけする時間も与えないで
腹が立ったので圭以子が子どもたちの前に割り込んで大人たちに大声で言い返した。するとそれまで謝る一手だったちー子もやる気を取り戻し、大人二人と、圭以子とちー子との言い合いになる。農家の夫婦は大人らしい凄みをきかせて怒鳴り、圭以子とちー子は女の子らしい金切り声で言い返す。
しばらくやり合っていると、通りかかった軽トラックが横で停まり、その運転手さんが圭以子に
「よっ、
と声をかけた。
それまでの険悪さを吹き飛ばすほどに、とても朗らかに声をかけた。
それを聞いて、それまで激しい勢いで文句を言っていた農家の夫婦は顔色を変えて逃げ出した。ほんとうに顔色が変わったかどうか確かめている時間もないくらい、かき消すようにいなくなった。
地元限定の名家、「井岩家」の威力だ。
嬉しくもなんともないけど、でも、このときはなんとなく嬉しかった、というのが正直なところ。
軽トラックの運転手さんはそうなるとわかっていてやったらしい。軽く舌打ちしながら圭以子に
「このへん、いなかだから、ああいうのがいるんだよ。相手が子どもだと見ると見境なしにいばりやがる。地元の恥だよな。まあ、気にすんな」
と言って、軽トラックのエンジンをかけて行ってしまった。
お礼を言う時間もなかった。
お礼を言うべきかどうか考える時間もなかった。
ちー子と圭以子は平気だったけど、男の子のほうはずっと泣いていた。
ちー子の家は田んぼの中心で家のかたまっているところにあった。その家で足の泥を洗った。女の子のお母さんに麦茶とカステラをごちそうになり、そのかわり説教もされて、さらに帰りの道も教えてもらって、圭以子は五時を過ぎてから帰ったのだった。
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