第4話
ウィルマの傲慢さは、望まずとも知れ渡っていた。
あちらから近づいて来るような相手は、いずれも権力と財産目当てでしかなかった。
「私は最初から嫌われていたの。いざ愛されたいと思ったら、周りには誰もいなかった……そんな時に声を掛けてくれたのが、フィリップ様だったんです」
『やあ、驚いた。貴女のような大輪の花が会場の隅で震えるなんてもったいない。お名前は?』
王国の皇太子となれば、その名を知らない貴族はいない。
それでも、ウィルマはフィリップの顔までは知らなかった。
声を掛けてくれたのは、黄金色の頭髪に、シャープな輪郭、幼さの残る中世的な面立ちの青年だった。
彼はやんごとなき血筋のせいか、社交界の噂話になどまったく興味がないようだった。
「フィリップ様は、気さくに話し掛けて下さったわ」
(それは多分、単にモノを知らないだけだったのでしょう……)
エミリアは肯定も否定もせずに、聞き流した。
フィリップは他人の顔を覚えない。きっと噂話も、耳に入れたところで何処かへ流れてしまったに違いない。
「今思えば、噂を聞いていても忘れただけなのかもしれない。でも、その時の私には、眩しく映ったの。とても優しい方だって」
ウィルマの瞳は熱を帯びていた。
「嬉しかった……本当に。だから、エミリア様との婚約が決まって、待っていて欲しいと言われた時も、ちっとも嫌じゃなかったんです」
「……私と貴女の主張はどこまで行っても交わらないわね。でも、動機は理解しました」
「正論は結構です。あの方は何でも持っている。それなのに、私の持ち物でなく、私を欲しいと言ってくれた。だから」
「
ウィルマは頷いた。
(この準備の良さなら、無理にでも私を攫う選択もあった。それなのに手の内を明かしたのだから、誠意と受け取るべきかしら……)
エミリアは、ウィルマの真意を探ろうと見つめた。
「貴女には悪いけれど、馬車へは乗りません」
「あら、どうして? 最後のチャンスかもしれないんですよ?」
ウィルマは意外そうに目を見開いた。
馬車に乗るということは、逃亡を図る行為だ。
ウィルマの提案を受け入れる以前に、エミリアには逃亡を選択する理由がない。
軟禁生活は不自由で不愉快極まりないが、既に事態は収束に向かっている。
「そうね……例えば、その選択が私に不利に働くから」
嘘ではない。
打ち明け話は多少、同情心を刺激したが、それでもエミリアの知ったところではない。
真実など、明かすものか。
愛を理由に今頃こんなに勝手な行動を取るなら、初めから正々堂々フィリップと手を取って、アンゲリクスとマルティナを説得するべきだった。
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