第3話

「こんなに……何?」


「たった一人の女性に、こんなに頼りきりだったなんて。知りもしませんでした。上皇両陛下も、フィリップ様も、情けない」


「それは……ひょっとして褒めてくれているのかしら?」


「だから、作戦を変更しました。直接お願いして、出て行ってもらうしかありませんでしょう。それ以外に私が正妃になる道はなさそうですから」


「それが、お願いの態度かしら……?」


 エミリアはクスリと笑みを零した。


 ウィルマが何処まで本音を吐いているのか、まだ、油断ならない。


 アンゲリクスやマルティナはエミリアの助力が欠かせない。


 だから猫なで声で懐柔するしかないのであって、エミリアを消したいだけなら、手段はどうとでもなる。


「ええ、お願いです。私のためにもご協力くださいませんか?」


(嫌だと断ったら……危害を加えるつもりかしら?)


 どちらにせよ、ウィルマが何を考えているのか分からないまま従うわけにはいかない。


「嫌っている私に頭を下げてまで、妃になりたいの? そんなに良い物でないと、理解したでしょう? 貴女の実家は、充分に豊かなのだし……」


 エミリアが呆れると、今度はウィルマが失笑した。


「本当にお人好しね。私の心配までしてくださるなんて。でも、一つだけ誤解しています。私は何も贅沢がしたくて妃になりたいんじゃありません」


 ウィルマは、珍しく穏やかに微笑んだ。


(この娘は……本当に本心から言っているの?)


 エミリアは眉根を寄せる。しかし、その笑顔も一瞬で消えてしまった。


「私はただ、私が愛した殿方と添い遂げたいだけです」


 エミリアは訝しんだ。


 この娘は、足りないところがあると見せかけて実に狡猾だ。


 信用には値しない。


「その目……嘘だと思ってらっしゃいますね。まあ、信じて貰わずとも構いませんが……。私には、フィリップ様しかいないんです」


「え‘‘?」


 エミリアは王妃にあるまじき声を出した。


 ウィルマのように腹に一物を抱えるような腹黒い女には、似つかない発言だからだ。


「酷い声を出さないで下さいよ。……確かに、想像していたよりずっと、下衆な方でしたわね。でも、私も大概、性悪ですから。殿方から本当の意味で好かれたことがありませんでしたの」


 ウィルマは訥々と、敢えて感情なく語り出した。


 エミリアには関わりのない話だ。


 それでも、ウィルマの行動に辻褄を求めて聞き入った。








 ウィルマは由緒正しい公爵家の令嬢だ。


 所有する領地は王国の一割にも匹敵し、代々資産家である。


 そのお陰で何不自由なく育ち、要領の良さも手伝って、すっかり我儘な令嬢に成長した。


 自覚はあった。


 だが、咎める者もないまま社交界に出て、ウィルマは初めて思い知らされた。


 自分に愛情を抱く男性など、誰一人いないことを。


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