第7話

「それは、貴女が差配していたの? 関わっていただけではなくて」


 エミリアはエドワードの戸惑いに気付いて、遠くを見る。くすりと微笑んだ。


「陛下は政務が苦手でしたから。……ここだけの話ですけど」


 気が遠くなった。


 それで、果樹園ではトロッコの話を持ち出したのか。


 ヴァルデリアでの、道路の整備は大事業になる。


 その上線路を引いて列車を走らせるとなれば支出は桁違いだ。


 随分と大胆な提案をするものだと驚いた。


 しかし、エミリアの指摘も理に適っていた。


 都市が栄えれば、いずれは人や物資の行き来のために、馬車以上の運搬を必要とすることは目に見えている。


 莫大な費用を要するが、数度に分けて着手するよりも、一度で済ませた方が結果的には一番手間も経費も少なくて済む。


 或いは……。


「さっきの、線路の話だけど、ヴォルティアでは鉄道の導入を検討していたの?」


「トロッコの運用にあたって調べただけです。ヴォルティアは土地の高低差が激しいから、導入は厳しいかと。でもヴァルデリアなら……かかる費用を上回る収益が見込めるでしょう」


「どれくらいで回収できると思う?」


「どうでしょう。何都市を繋げるか存じませんので何とも……王宮に戻ったら試算してみましょうか? 私に大切な財政の秘密を明かしても良ければ、ですが。各都市の人口の統計などは取ってありますか?」


「ちょうど道路整備のために実施するところだった。他に……」


 エドワードは、目を瞬かせ、次々に質問を投げかけた。


 エミリアの証言は事実だ。ヴォルティアの政務はエミリアが直接関与していたのだろう。


 何を聞いてもごく自然に、いつものまったりとした口調で淡々と回答する。


「ありがとう、参考になった。それにしても……、凄いな。エミリア」


 エドワードは感嘆した。


 彼女の小さな頭の中には、幾千の智慧が詰まっているのだろう。


「――こんなことでお役に立てるなら、喜んで協力致しますわ。していただくばかりで、何もお返しができていないから」


 エミリアは、エドワードに褒められたことを、喜んでくれた。


 その純真な微笑みに、また胸が熱くなる。


「エドワード様、では、そろそろ王宮へ戻りましょうか。続きのお話を致しましょう。今日はとてもいいお天気で、楽しかったですわ」


 エミリアは満足してくれたらしい。しかし、エドワードは未練を感じていた。


「いや、まだ行先が一つ、残ってる。君とならどんな話をしていても楽しいが、政務の話はまた後でにしよう。ちょっと待って」


 エドワードは川から上がり、足を払うと布を取って戻って来た。


「エミリア、足をこちらに」


 エドワードは、座ったエミリアの前に片膝をつく。


「そんな、貴方にそんなことさせられない……」

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