第6話

 さりげなくしなければいけないのに、つい性急な触れ合いを求めてしまう。


 今日のデートは順調と呼べるだろうか?


 エミリアは楽し気にしてくれている時もあるが、その度にエドワードが手を出し、エミリアを戸惑わせている。


「エドワード様、どうなさったの? どこかお加減が?」


 牧場を一通り見学した後、休憩のため、近くの小川で足を浸した。


 二人で並んで飛び石に腰を掛け、涼を取る。


 脛をむき出しにした白い足が目に眩しい。


 エミリアはエドワードを心配して、覗き込むように窺った。


(――いや、足を目的に誘ったのではない。これは、不可抗力だ)


 髪をかき上げ耳にかける。それだけの仕草にも、エドワードはつい頬を緩ませる。


「いや、どこも悪くはない」


 エミリア愛らしさはその見た目だけではない。


 心根から生み出される、優し気な所作にもあった。


「麗しいエミリアと二人きりで、胸が一杯になっただけだ」


 エミリアの頬が、さっと赤に染まる。


 エドワードの言葉に対する素直な反応に、きゅーっと、胸を引き絞られた。


 上気する、ふんわりとした輪郭の頬は、触れればどんな感触がするだろう。


 熟した赤リンゴのように色づく唇からこぼれる吐息を、今すぐに奪い取りたい。


 無意識の欲望に、ごくりと喉を鳴らした。


 掌を握り絞めて、堪える。


 エミリアは、不用意に距離を詰めるエドワードの仕草に、いつも戸惑っている。


 その反応が可愛らしくて、つい、いけない気持ちになってしまう。


 もう少し上手く接していれば、今より多少心を開いてくれたかもしれないのに……。


 エドワードは、掌に食い込む爪の痛みで、どうにか理性を保った。


「それは、あ、ありがとうございます……?」


 エミリアは、困ったように目を泳がせた。


 だが、昨日とは、少し態度が違う。


 今日の旅程は、楽しんでくれていると思う。


「足は、冷たくない?」


「ちっとも。とても気持ち良いです。こんな風に過ごすのは初めて……」


 風が一筋、髪を掬って通り過ぎた。


 川の水気を含んだ冷たさに、目を細める。


「いつも、宮殿ではどんな風に過ごしていたの?」


 エミリアは口籠る。


 答えにくい質問をしてしまったのだろうか? 


「そうですね……。王宮での私は、毎日忙しくしていました」


 エミリアが紡ぐ言葉に耳を傾ける。すると、ぽつりぽつりと、エミリアは語り始めた。


「朝礼に、会議、財務調整や社交に慈善活動……。あとはお茶会や、夜会かしら。きっとエドワード様のしていることと変わりません」


 エドワードは内心閉口した。


 それらの一部、いや、前半のほとんどは国王の取り仕切る分野ではないのか。


 通常王妃が受け持つ政務は、社交が大半を占めている。


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