第5話

 果樹園を後にして、次にエドワードは牧場へ向かった。


 王室の管理する牧場を案内し、その後王都に立ち寄り、歌劇場へ……。


 との流れが、リチャードから提案された「エミリアが喜ぶであろう理想のデートコース」だった。


 リチャードはエミリアを宮殿に招く前に、ちゃっかり好みの掌握を済ませていた。


 出来の良い部下で、実に有難い。


「エミリア様はあまり通俗的なものに興味をお示しにならないようです。


政務に強い関心をお持ちで、自然の恵みに深い感銘を抱いています。


ですのでヴァルデリアの天然資源をご紹介するのが良いでしょう。


とはいえさりげなく、距離を縮めなければなりません。


エミリア様は傷心のご様子ですから、がっついてはなりません。


あくまでさりげなく、触れ合う機会を設けてください」


 リチャードは、エドワードにデートの心得を説いた。


「わかった。やってみよう」


 エドワードは今まで女性や自身の結婚にあまり関心がなかった。


 必要な時に必要な女性を妃にすればいいと考えていた。


 だから女性の好む遊興も、好きな食べ物も、あまりよく知らない。


 それが柄にもなく、突然女性を口説く必要に迫られるとは。


 エドワードは、人生には本当に予測不能なことばかり起きると、改めて実感した。






 あの日、父の名代でヴァルデリア新国王の戴冠式に出席した。


 出席のついでに、父に代わって国内を視察して来いという。


 エドワードは任務遂行のためにヴァルデリアに渡った。


 戴冠式の貴賓席から、エミリアを見た。


 絹糸のような黄金の髪と、サファイアのように美しく、思慮深い瞳が印象的だった。


 彼女の身体は発光する薄いヴェールに包まれているように、光輝いて見えた。


 彼女の一挙一頭足から目が離せず、肝心のヴァルデリア国王の顔など目に入らなかった。


 たった一度でも、こちらを見て欲しい。


 ただ一度でも微笑みかけてくれたなら。


 唯一訪れたたった一度の祝辞の機会では、ありきたりな言葉を交わすに留まった。


 なによりエミリアは、ヴァルデリア国王と共に、常に護衛に囲まれていた。





 エミリアは、”国王の妻”だった。





 どうにもならない、歯痒い思いの中で、エドワードは決意を固めた。


 エミリアが誰の妻だろうと、構わない。どんな手段を使ってでも、彼女を自分の妃にしようと。


 しかし……エミリアの涙で、エドワードの狂気は洗われた……。


 ともかく今は、誠心誠意を尽くして、エミリアの愛を請いたい。


 リチャードの言う、さりげなく触れあうとは、一体どういうものだろう?


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