第2話
ウィルマは下がっている衣類を一通り眺めまわしてから、扉を締めた。
「そこはもう見た。……勝手に開けるな。エミリアの私物だ」
「それは、失礼しました。では、フィリップ様、この後は……」
ウィルマは、フィリップにすり寄る。
「この後?」
この状態をどうにかするまで、今後の動きなど決められない。
フィリップは頭を悩ませたものの、溜息をつく間もなく第二の珍客が乱入した。
「まあ、話し声。エミリアの様子はもういいの?」
あっと、気付いた時にはもう遅い。フィリップの視線の先、妻の部屋の入り口には、母である王太后、マルティナが立っていた。
彼女の隣には夫――つまりフィリップの父、アンゲリクスがいた。
「父上、母上。何故ここに」
見張りに侍女を一人立たせておいたが、上皇と王太后を退けられるわけがない。
「可愛い娘が病に臥せっているのよ。お見舞いに決まっているでしょ。貴方もせっせと顔を出して、お熱いこと」
「いけません、母上。エミリアは、その……」
「あら、サンフラン嬢もいらっしゃったの。ありがとう。気丈なエミリアが体調を崩すなんて、戴冠式に向けてよほど気を張り詰めていたのね。私、貴女の献身には常々感謝しているの……」
マルティナは真っすぐベッドに向かう。
フィリップは何か気を紛らわせる方法はないか、頭をフル回転させたが、時間が足りない。
「どういうこと? これは!?」
空っぽのベッドを覗いて、一目でエミリアがいないと露見した。
「どうした。大きな声を出して」
次いでアンゲリクスも、声にならない声を上げる。
「エミリアは、どこなの?」
何の妙案も浮かばない内に、最も知られてはいけない相手に知られてしまった。
万事休す! とフィリップは目を瞑る。
「申し訳ありません……陛下にまで秘密にしていたことを、お詫びします」
すると、ウィルマが一歩進み出る。
「実は、一昨日の晩……フィリップ様は私を側妃として迎えたい……、とエミリア様に許しを請いに伺ったのです。私がフィリップ様にお頼みしました。でも、エミリア様は頑なに拒まれました」
「ウィルマ、何を言うんだ!?」
驚きのあまり、ウィルマの口を塞ごうと手を伸ばす。
しかし、彼女の方が一歩早くて、その腕を躱された。
「エミリア様にはご承服頂けず、怒って出て行ってしまわれました。でも、夜も更けていましたし、すぐ帰ってくると思っていたのですが……」
「フィリップ、それは本当か」
アンゲリクスの声が、やけに遠くから聞こえる。
「本当です、父上」
そう答えるしかない。マルティナは険しい顔をして、唇を戦慄かせた。声も出ないらしい。
「それで、捜索は? 手を拱いて待っていたんじゃなかろうな? どこかで気が済むまで、休ませているのだろ」
アンゲリクスは、確認するように尋ねる。
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