第14話

 朝食後、エドワードは約束通り果樹園へ招いてくれた。


 樹木を育てている広大な畑を抜け、なだらかな丘陵を上がっていくと、段々畑に果樹園が広がっていた。


 エミリアは歓声を上げた。


 その弾んだ声に、果樹園で作業をしていた男性たちも気が付いて顔を上げる。


 優しそうな中年の夫婦が、笑顔で近付いて来た。女性の方は、金髪と鳶色の瞳が印象的な美人だ。


「エドワード様! ようこそお越しくださいました。もしかして、こちらのお嬢様が」


「初めまして、エミリアと申します」


「お話しには伺っておりますよ。さあさあ、こちらへ。お話し通り、美しい方。日に焼けたら大変だわ」


 エミリアは愛想笑いを取り繕いながら、妙に堂々としているエドワードを見遣る。


「エドワード様、どうして私のことをご存じなんです?」


「リチャードだよ。連絡を頼んだから、なんやかやと吹き込んだのかも。何せ主想いだから」


 エミリアは目を見張って驚いて見せた。


 リチャードならやりかねない。主に都合の良い言葉を、事実を歪曲させない加減で上手く触れ回った可能性が高い。


 エドワードは困った素振りを装って、果樹園の奥へ進んでいく。


 畑を抜ける途中、近隣の農家の家人も興味本位で顔を出す。


 方々から流れ出てきて、物珍しそうにエミリアに注目した。


「おおい、エドワード様が視察にいらっしゃったぞ」


「女性を連れてらっしゃるわ。これはもしかして……!」


 口々に囃し立てる農夫らに、エドワードは手を挙げて応える。


 肝心な話題には触れず、エドワードはエミリアの手を取った。


 森の入り口は目の前だ。


 柔らかい下草の茂る小路を辿っていく。


「ここからはうちの私有地でね、住人以外は立ち入らないんですよ」


 果樹園では頭上を覆う鬱蒼とした蔓の隙間から光が零れ、無数の黒い物体がぶら下がっていた。


「これは……?」


「こうやって袋をかけて実を守ってるのさ。ほら」


 エドワードは手近な黒い塊に手を伸ばして、袋を取り除いた。


 中から出て来たのは、はち切れんばかりに実を膨れさせた大粒の赤葡萄だ。


 ただ、まだ色味が薄い。


「おや、これはまだ少し早いようだ」


「今すぐ召し上がるなら、こっちのほうが良いですよ」


 夫と思しき農夫は、梯子に昇り、少し上方に生っている赤い小粒を袋から出した。


「どうぞ、お嬢様」


 お嬢様と呼ばれて少し、むず痒さを感じるが呼びかけに応じる。


「ありがとう。どうぞ、エミリア」


 エドワードを介して手渡された実は確かに深い赤に色づいている。


 色濃く熟しながらも、瑞々しい艶を帯びていた。一粒もいだ口から果汁が滴る。


「ありがとう。頂きます」


 エドワードが隣で同じように粒を手に取って皮を剥く。


 エミリアも真似して食べることに決めた。

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