第2話
「ああ、そのことか。それなら『彼女は私の大切な客人だ』と伝えたよ。『結婚を望んでいるから丁重にもてなすように』って」
「国王陛下にもですか?」
王族の伴侶は、両親と重臣の話し合いによって決められる。
王族でなくとも貴族でさえ古くからの慣わしに従う。
それなのに王太子のエドワードが、初対面のエミリアに求婚した挙句、王城に招いたとなると、大騒ぎになりかねない。
エミリアは思わず額を手で押さえた。
「父上は寛大だから大丈夫さ。それに、母上も反対しないと思うよ」
「まさか、有り得ませんでしょう」
「特に父上には、君の姓もきちんと伝えてある。最初は驚いていたが、問題ない」
エミリアは唖然とした。
問題ない、訳がない。
「隠しても直ぐに知れると思ったから、先に話したんだ。まあ、結果的に父は私達の仲を認めてくれたし、むしろ喜んでいたよ」
「え……? そんな、馬鹿な」
うっかり馬鹿呼ばわりして、口を手で覆う。
普通の父が認めるなんて考えられなかった。
エミリアは伯爵家の出身とはいえ、既に王室に嫁いでいる。
離婚歴があるだけでも充分、王太子との結婚には不適格なのに、その上離婚さえ済んでいない。
半分は事実だが、ヴォルティアから「妃を強奪した」と非難され、争いの火種となるかもしれない。
(そんな暴挙を認める父親が、本当にいる??)
「私がおかしいの? そんな、おかしいわ。貴方もリチャードも、おまけに国王陛下もだなんて。ああ、やっぱり私、ついて来てはいけなかったのだわ」
「エミリアは可愛いな。何も心配することはない。国王はただ、息子の幸福を喜んでくれただけさ」
「ごめんなさい。私に考えが足りなくて。あの場から逃れたくて、貴方に罪の片棒を背負わせた。もっときっぱりと拒絶すれば良かった」
自分勝手に、もっと細やかに匿ってもらえるのではと思い込んでいた。
エドワードは初めからエミリアを妻にと望んでいたのに。
「おいおい、落ち着いて。大袈裟だな、大丈夫だよ」
「どうして? だって、もしヴォルティアと戦争になったらどうするの?」
「ならないさ。エミリアの素性は父にしか話していない。他に知るのはリチャードだけだし、二人とも口外しない」
エドワードはエミリアの両手を、一回り大きな手で覆った。
「父に知らせたのは理解者を増やすためだ。君を困らせるためじゃない。隠したほうが後でよっぽど拗れる。考えた上で明かしたんだ。それに一つ誤解がある。私が罪の片棒を担いだんじゃない。私が貴女を無理に連れ去ったんだ」
エドワードは主張を変えない。諭すような口調で告げた。
「エミリア。私を信じて欲しい。私は絶対に貴女を傷つけたりしない。この先ずっと幸せにする。たとえ、貴女がどんな選択をしたとしても、貴女も、貴女が大切にしているものも、必ず守ると誓うよ」
「…………」
真摯に訴える瞳が、エミリアの心に訴えかける。
心の揺れが鎮まって行く。根拠などありはしないのに……。
「信じてくれるね?」
「……信じるわ」
と呟いていた。
エドワードは微笑むと、手を解いてエミリアの頭を撫でた。
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