第3話

 身体を起こし、すっと背筋を正す。


「結構」


 エミリアは、エドワードの挙動から目が離せなかった。洗練された所作は優雅そのもの。


 しかし、単に、優雅な男性なら見慣れているのに……。


「他に心配事は?」


「いえ……」


「そうか。なら、次に貴女がするべきことは、休養だ。今バスの用意をさせているから、湯浴みをしたら、ゆっくり休んで」


「ありがとうございます」


「じゃあ、また夕食後に」


 エドワードが手を差し出した。


 それが何を意味しているのかを理解して、エミリアはその上に自分の手を重ねる。


 エドワードはエミリアの手を引いて、唇を落とした。


「楽しみにしているよ」

 

 そのまま踵を返し、扉の向こうに消える。


 エミリアは一人になると、ベッドに腰掛けて深く息を吐いた。


「……疲れた、のかしら」


 ごろりと横になると、緊張が解けてどっと疲労感が押し寄せてきた。


 様々な事象が立て続けに起きたせいで、疲労を感じる余裕もなかったようだ。


「でも、まだ何も終わってないのよね」


 目を閉じて、これからのことを考えようとした。


 けれど、すぐに睡魔に捕らえられ、深い眠りに落ちた。





***






「……失礼します、お嬢様。……お嬢様、恐れ入ります。目をお覚まし下さい……」


 遠くで、声が聞こえた。


 肩を揺すられても、声を掛けられているのが自分だと、直ぐに気付かなかった。


「お嬢様、そろそろお目覚めになりませんと、お食事に間に合いません。……エミリアお嬢様」


 名前を呼ばれ、ハッと目を開ける。


 見覚えのない天井に、一瞬、自分がどこにいるか分からず混乱したが、すぐ昨夜のことを思い出す。


 とてもお嬢様と呼ばれる年齢でも立場でもないので、どことなく心苦しい。


「ごめんなさい、私、眠っていたのね」


「申し訳ありません。声をお掛けしてもお返事がなかったので、勝手に入らせて頂きました」


「どれくらい眠っていたのかしら? 今は何時?」


「間もなく16時でございます。目覚められたばかりで申し訳ないのですが、湯殿へご案内します。お食事の前に湯浴みをお済ませ下さい」


 目の前にいる侍女は、先ほどの侍女頭ではなかった。


 もっと年若く、溌剌とした印象だ。歳は15,6歳頃だろう。


「気を遣わせてごめんなさい。お名前を伺っても?」


「申し遅れまして、失礼致しました。私は、エマ・バーナでございます。エマとお呼びください」


「エマね。よろしく」


「こちらこそ、宜しくお願い致します。では、参りましょう」


 部屋を出て、長い廊下を進むと、広々とした浴室があった。


 大きな窓があり、そこからも庭園を見下ろせる。


 白い大理石でできた浴槽は広く、ゆったりと手足を伸ばすことができた。

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