ヴァルデリア
第1話
「ようこそ、ヴァルデリアへ。心から歓迎するよ」
到着するとすぐに、エミリア達は王城へと案内された。
謁見の間に通されると、玉座に腰かけたヴァルデリア国王が、両手を広げて出迎えてくれた。
「ありがとうございます。陛下にお会いでき光栄です」
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。エドワードに話は聞いた。自分の家だと思って、ゆっくり過ごして欲しい」
「恐れ入ります」
ヴァルデリアの王城はヴォルティアに勝るとも劣らない、荘厳な佇まいだった。
しかし、どことなく肌に感じる空気が違う。
草原に囲まれているせいか、まろやかだ。
エドワードは父である国王に、エミリアを何と説明したのだろう。
隣に立つエドワードを見上げても、胸中は読み切れない。
不確定な要素ばかりだが、エミリアは礼儀を失さないよう、恭しく膝を引いて礼を尽くした。
「まずは旅の疲れを癒やして貰おう。客室に案内させるから、今日は部屋で休むといい」
「では、早速失礼させていただきます。行こう、エミリア」
「はい、エドワード様」
エドワードに手を差し出され、エミリアは迷わず手を取った。
快く滞在を許可してくれた国王を前に、エドワードの真心は拒めない。
そのまま歩き出すと、背後で国王が微笑ましそうに見送る気配があった。
(いったいエドワード様はヴァルデリア王に何と説明したのかしら……)
尋ねたかったが、案内役の侍女の目があるので憚られる。
「こちらの部屋をお使いください」
まんじりとした心地で案内されたのは、2階の広々とした客室だった。
ベッドルームと居間に別れており、窓の外には美しい庭園が広がっている。
「まあ、 素敵!」
「気に入ってもらえた? 滞在中は自由に使って構わないから」
「いいんですか? こんな素敵なお部屋」
「もちろんだよ。私は君が快適に過ごせるよう尽くすと誓っているんだ」
「エドワード様……」
エドワードはエミリアの手を取り、甲に軽く口付けた。
「今宵、夕食後に君の時間をいただけないだろうか? 今後のことで話したいことがある」
「食後……」
「駄目?」
「いえ……、お断りしているのではなく」
人目を憚り、声を潜める。
「私もお時間を頂きたいのです。今」
「今?」
「はい、できればここで……」
そろりと、案内役の侍女頭を振り向く。
エドワードは意図を汲んで、直ぐに人払いをしてくれた。
「案内をありがとう。私は彼女と話があるから、少し外してくれ」
「承知しました。御用の際はお呼びつけ下さい」
一礼をして退出していく侍女を見送ると、エドワードは身を低くしてエミリアに囁いた。
「いきなり部屋で二人きりになるなんて、大胆だね。益々噂になる」
「っ、そんなつもりで引き留めたのではありません」
「私は構わないけどね。貴女との噂なら万々歳だ」
「もう! 私が聞きたかったのは、エドワード様が王城の皆様に私を何と説明したかです」
エドワードは一瞬、きょとんとしてから、破顔した。
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