避けられる道
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執務室において夫婦で行為に及んだ事実が周囲に知られた。
それは処分もあり得ることであり、実際に行為を目にしてしまった者がいたのだから。
そんなある日、里美の元にとある通知が届くと…
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執務室の前へ到着した利佳子は、里美をベルを鳴らし呼び出す。
「あれ利佳子だ。修二くん服大丈夫?開けるよ。」
「あぁ、ゴミも捨てたし大丈夫だろ。」
モニター映し出された見慣れた顔は相変わらずの凛々しい表情。
自分たちの周囲を見渡し行為の跡となる物が無いか確認した後に里美は扉の開放許可を出すと、目の前には冷やかな目をした利佳子の姿があった。
「さっき誰か来たでしょ?あなた達ここで何してたの?」
「あの、色々と相談を…」
「あなた達の相談なら家でも何処でも出来るわよね。ここは仕事場なのよ?セックスするなら家でしなさい。それかあの例の部屋もあるでしょうに、何のための場所なのよ。」
二人は答えられずにいた。
『例の部屋』とは、去年施設内に新設された特別室のことだ。
福利厚生の一環として施設内にジェンダールームと呼ばれる部屋が出来、日々多忙な組織職員達のため、そこでは自慰行為、同意した者同士の性行為が可能な部屋とされていた。
日々の多忙と疲労により家庭での夫婦時間を取れずにいた者、帰宅できず性欲発散のための環境が整わずストレスとなっていた者、その部屋が出来てからというもの組織の勤務環境と雰囲気は格段に良くなったと言われている。
昼夜不規則な仕事、心身の安定のため設けられたのだ。
「だってあの部屋の使い方なんて知らないもの。それに執務室がない人たち向けの場所なんじゃない?私はここの部屋があるし仮眠用だけどベッドだってある。」
「あのねぇ、執務室っていうのは仕事をする場所なのよ、分かる?それにあなた達のその姿を見てしまってとても動揺してる。彼女そういう事に抵抗があるみたいで、すごくショックを受けてる。」
「そう…なの?じゃあ尚更ちゃんと謝らなきゃ。」
「そうした方が良いと思うわよ。」
…
利佳子と修二、里美は研究室へと向かった。
「ちゃんと相沢のフォローしなさいよ。」
「分かってるわよ。」
里美は言葉を選びながら彼女の元へと向かう。
「相沢さん、さっきは申し訳なかったです。書類を届けに来てくれたと思うんだけど、恥ずかしい所を見せてしまって。」
「いえ、私も勝手に扉を開けてしまって…先ほど初めて外から開けるのはマナー違反だと聞きました。こちらこそ申し訳ありませんでした。」
「いや、私もそういう事をしているならちゃんとロックしておくべきだったのよ。それから彼からも…」
「俺からも謝るよ、申し訳なかった。」
「あ、あ…えっと…」
相沢は里美を襲っていた男が目の前に居ることに動揺を見せた。
「この方は…」
「情報部の賀城修二、私の夫です。」
すると全てが繋がったのだろう、目を見開きそのような行為をしていた事情もやっと理解したらしい。
「相沢さん、聞いて貰えるかしら。私達が夫婦だからといって、職場であるこの場でそういう行為をする事は良くないって反省してる。ただ知っていると思うけど、ここで勤務している限りそういう行為も目にしなきゃいけない時が来るのは分かってるわよね?目を背きたくなる事だってあるし、あなたもいつか該当者になる時が来る。」
「知ってます…」
「そうね、でもショッキングな場面を見せてしまったのは事実だから、それはきちんと謝るわ。」
その後、里美と修二は例の部屋の利用方法について説明を聞いたのだった。
…
帰宅後
「はぁ…疲れた。愛梨はごはん食べたか?」
「あーちゃんね、ごはんいっぱいたべたよ!」
「今日のご飯は何だろな?パパのあるかなー?」
「ちゃあはんだよ!あのね、ぱぱね、ごはんちゃんとたべたらね、あいしゅあるから、あーちゃんがどーじょしてあげるねっ。」
パパっ子愛梨は帰宅して早々の修二の膝の上へ当然のように座り、ダイニングテーブルの料理を目の前にする。
これも親子の癒しの時間だ。
「お疲れ様。今日は色々あったからね…」
「だな。あの後俺、外出てたんだけどさ、暑くてかなり疲れたよ。」
「外周りだったの?情報部、今日の出勤人数少ないって聞いたけど大丈夫だったの?」
「まぁね。」
笑って誤魔化すその顔に、どうせ今日も怪しい事をして過ごしていたのだろうと察し、里美はこれ以上聞かないことにした。
情報管理部所属の修二。
組織内の様々な情報から組織職員でも限られた人物のみに許される極秘情報まで、あらゆる情報を管理する部署だからこそ、修二個人の行動も怪しいと感じる部分が多々あった。
ただそれは今更始まった事ではなかったし職務上仕方のない事なのだが、家庭では心を開放して欲しいと里美は願っていた。
「桃瀬さ、今日出勤してなんか聞いた?」
「何?特に聞いてないよ?」
「そっか、なら大丈夫。」
情報部所属だからこそ、先行で耳にする事もあるのだろう。
そういう事は決して珍しい事ではなく過去にも度々あった事であり、また家族であっても伝えるべきではない知り得た情報は修二も漏らす事は無かった。
だが、その複雑そうなその表情は何かあるのだと里美はそう感じていた。
「どうしたの?体調悪い?」
「色々と…疲れとか色々と考えてたからか頭痛もする。今日はなるべく早く寝たい。」
「大丈夫?薬だしておくね。」
「悪い…」
…
数ヶ月
毎年この時期になると次年度の実験対処リストが生成されるのだが、その最終決定会議に利佳子は出席していた。
「以上、当リストを来年度の対象者最終決定とします。」
「嘘でしょ、あの二人が…」
こうなる事は無きにしも非ず、それは誰にも予想出来る事では無かった。
この結果も数日以内には直接の本人に通達が行くだろうが、利佳子はその日が来るまでは心の内に留めておくことにした。
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