生命の喪失
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それぞれの生い立ちが今に影響していた。
また、あまりにもショッキンな出来事があったその後、医師からとある勧めを受けた二人の結論とは。
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後日、子ども達が保育園へ行っている間、二人は一緒に診察を受けていた。
「先日、修二さんの診察をさせてもらいました。そこから見えてきた事で、色々と気づきを見つけて貰えたらと思います。」
二人にとって、思い出したくない過去の事も呼び起こさなくてはならないだろうと説明を受け、特に里美は不安に感じる事もあったが、今後の治療法や方向性のためにも今はそれを受け入れる事を決めた。
「お二人とも子どもの頃にご両親を亡くされていますよね。」
「えぇ…」「はい。」
「同じ経験をしてきた事で惹かれあった部分もあるかと思うんです。そして修二さんの里美さんへの愛が強すぎるあまり、里美さんもそれに頼りお互いが苦しんでいる部分があるように思います。」
今まで自分達が普通と思って過ごしてきた事が良くない事だったのだろうか。
修二も里美も思考が追いついていなかった。
お互いに同じ境遇である事が故、恋人同士となった後もその満たされて来なかった部分を慰め合っていると医師は言う。
それはそうかもしれないが、それの何がいけないのだ。
「里美さんの診察で、以前からご自身の周りのことを修二さんはよくやってくれるとのことでしたね。その様な面でも、修二さんは自分がいないと相手がやっていけない、してあげる事での優越感の様なものがあると思われます。」
そんな優越感などという感情に自覚は無かったが、修二は黙って話を聞いていた。
「そんな修二さんの日常の優しさやフォローに頼っている里美さんも、求められたら応える。その求めも嫌ではない。それがお二人の場合、性的な部分を大きく占めているようです。」
二人はハッとした。
昔からそうだった。
修二の誰にでも優しいその性格が里美を苦しめ、一度は別の道を歩んだ。
それでも再会してしまった二人は、後に子を授り夫婦となり、家族を作った。
親からの充分な愛を受けぬまま成人した二人は、本当の愛し方を知らぬまま恋に落ちたのだった。
「今回、修二さんの診察をして初めて色々な事が繋がりこのような機会を作りました。この共依存というのは診断名ではないので病気ではありません。
ただ、今はお互いが依存し合っている状態で、それぞれが自立して支え合う事ができなくなっているのが今のお二人かと思います。」
要領の良い修二は、その指摘を理解するのにさほど時間はかからなかった。
「確認しても良いですか?」
「どうぞ。」
「夫婦としての思いは自分の方が強く、私の性欲を妻が身体で応える。お互いに幸せを感じるけど、それで苦しむ状況が生まれているのが我々の共依存ということでしょうか?」
「シンプルに言えばそう言う事です。」
今まで幸せばかりだった。
苦しみなんて感じた事はなかった。
だが、互いの身体と行為を重ね亮二を授かった後、その先に立ちはだかっていたのは里美の激しい悪阻と共に、体調不良を理由にも離れる事のできない仕事だった。
授かった命なのに、無理をしなければならない状況に陥ったその末路が早産という結果。
そして目の前に迫った自身の死の恐怖。
里美は自分を責めた。
未熟な身体で出産してしまった我が子への思い、それから置いて自分だけ退院した事も。
それは修二も同様だった。
同じ職場で働く者としてもっとフォローしていれば、してきた以上の何かが今なら出来たのではないかと。
そんな里美とセックスという行為で慰め合った。
身体の快感は勿論、心の安らぎを途轍もなく感じる里美との行為から抜け出せずにいた。
そして産後間も無く再び宿った命。
この頃から徐々に変わり始めていた里美の心と身体は、最悪の行動へ導かれて行くのだった。
…
「性行為に及ぶ事は悪いことでは有りませんが、お二人の場合その結果、苦しみや悲しみの状況になることが多いですよね。この点は、どうお考えですか?」
「自分はずっと、里美と恋人同士なった頃から子どもが欲しかったんです。
今は三人いますけど、産まれる子は育ち、そうでない子はそういう運命なのだと考えています。」
だが話の流れから、修二はその思いが里美を苦しめているのかもしれないと気付いた。
「里美さんは?」
「私は…勿論授る事は幸せだし、大好きな人との子どもだし幸せです。だけど産む度に心が付いていけなくて、今の子達が赤ちゃんの頃は本当に…」
里美は涙を流し始めた。
その様子に、修二は気にかける。
「…大丈夫か?」
「あの頃は人手もそうだし、何をするにも時間、心の余裕、体力も足りてなかった。それで修二はドイツに行っちゃうって言われて。
それに撃たれて、このまま死んで残されちゃうんじゃないかって思うと恐ろしくて堪らなかった。子ども達を何処かに預けて私も死んでしまおうかとも思った。だけど…どうしても…出来なくて」
修二はあの頃の里美の思いを、この時初めて知った。
そして『死』を考えていた事も。
幼子三人を残し、そのような事を考える訳はないと勝手に思っていたし、自身の命が失われても里美さえ生きて子どもたちを守ってくれれば良いと思っていた。
「行動出来なくて良かったんですよ。」
この時、里美は心に引っかかっていた何かが漸く流れて行くのを感じた。
「それから、お二人はこれからのお子さんについてどう考えていますか?」
「それはどういう事でしょう?」
「私が口出しするつもりはありません。ただこの先、新たににお子さんを望むのか、今いる三人のお子さんたちで充分と感じるのかということです。」
「私は…今はこれ以上望んではいません。」
「修二さんの方は?」
「現状、妻がこのような状態ですから、これ以上望むことはできません。もう諦めました。」
里美はその言葉にショックを受けた。
自分でもう子どもは望んでいないと言ったにもかかわらず、修二のその言葉は女性としての役割を否定されたような気がした。
「そうですか。提案なんですが、避妊リングを入れてはいかがでしょう。五年ほど妊娠の可能性を下げることができます。月経痛の症状も和らげることができますし、避妊の効果も高いです。」
医師はリーフレットを見せながら、避妊リングと呼ばれる器具を子宮内に入れるのだと説明して見せた。
「金銭的な事もありますし、持ち帰ってお二人で相談してみて下さい。」
実は里美は、この存在をすでに知っていた。
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