守りたい思い

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里美の入院に伴い、修二も自身の気掛かりを医師に打ち明けた。

予想もしていなかった医師の指摘に、子ども時代の出来事を振り返るのだった。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

緊急搬送された里美。

利佳子の予想通り、大量の出血は流産との診断だった。

子宮内に残っていた物を掻き出す処置も終え、精神病院へと戻って来ていた。

翌日、修二は半休をとり里美の元へとやってきた。


「おはよ。」

「大丈夫そうか?俺たち色々と話さなきゃならなそうだな。」


昨日の出来事で精神的なショックを受けていた里美は、まだ表情が暗いままだった。

精神病院での入院プログラムも順調にこなし、気持ちも表情も安定してきた所で再びショッキングな出来事に襲われた現実。

良い方向に向かいそうになると、それを打ち消すような出来事が起こる、今までもその繰り返し。

人間、誰もがそんなことの繰り返しなのだろうが、この二人を襲う出来事は深く傷を抉るものが多かった。


「私、何でいつもこうなんだろうね。こう、予定していなかったとしても来てくれた赤ちゃんを守れないの。」

「ここの医者には話してたのか?その…色々と症状のことは。」

「最近お腹が痛いなっていう感覚はあったけど、生理が来るんだろうなって思ってた。それで案の定来たんだけど、出血が多い日が続いて…」

「で?」

「利佳子に会って、ここまで出血が続くのは変なのかなって聞いてみたのね。そしたら良くはないだろうって。そんな話をしてた後にあんな事が…」

「なるほどね。」

「生理が来てる事はちゃんと話してあったのよ。だけど、一緒にトイレに入るわけでもないし出血の量までは見ないもの。」


病院側の見解としては風邪の症状と思われた吐き気は悪阻なのだったのだろうとのこと。

それに伴い何らかの原因による発熱、その後不完全流産が起きたらしい。


「出てきた物見たか?」

「うん、初めて見た。あの子達も最初はあんなに小さかったのよね。」

「俺も利佳ちゃんに見せられたよ。これが赤ちゃんなんだって。たぶん利佳ちゃん、俺に怒ってるぞ。凄いキツい顔で睨まれたからな。それに呼び出し受けてるんだ。」


修二は利佳子が言いたい事は分かっていたし、それに対しての言い分もある。

第三者が何と言おうと夫婦の問題なのだ。


この半年、里美の回復と子ども達を育てるため、一人で懸命に家庭を回してきたつもりだった。

だがそれもそろそろ終わりなのかもしれない。


修二は先週、優梨が風邪で保育園を休んだことをきっかけに自身の異変に気付いたのだ。

時間の許す限り、毎日のように自慰行為に及んでいることを。



後日、修二は自身のことで里美と同じ心療内科を受診していた。


「今日はご主人の方でしたね。」

「宜しくお願いします。」


修二は自身の気になっていることを包み隠さず話した。

問診票にも幼少期からの出来事や家族構成など、事細かに記載し、医師はその面からも修二の几帳面さを感じ取っていた。


今の気掛かりとしては、性に関する事が一番だった。

里美との行為自体、毎日及ぶほど頻繁ではなかったのにも関わらず、今では自慰行為が止められなくなったのだ。

時には車の中や職場のトイレでも及び、そんな自分に罪悪感を感じていた。


「賀城さんの日常生活に支障がないのであれば、回数やペースに問題はないんじゃないでしょうか?」

「自分はセックス依存症ではないてすか?」

「今日初めて賀城さんの診察をさせてもらって、はっきりした事は言えませんが可能性はあるかもしれません。それよりも気になるのは奥さんとの共依存関係についてですね。」

「共依存…」


共依存という言葉が自分に当てはまるとは思ってもいなかった。

だが、それはどういう事なのだろうか。

医師からの説明によると、心当たりがありすぎた。

両親の事、思春期という多感な時期に経験した壮絶な出来事、里美と出会ってからの事、そして里美と出会ってからの関係。

里美がこうなった今の状況こそが、まさにそう言える状況なのかもしれない。


「今日、修二さんからご自身のお話を初めて聞かせてもらって共依存の可能性に気づきました。本当はお二人一緒にカウンセリングできると良いのですが。」

「自分は一緒に診察を受ける事は問題ないです。妻の診察にも今まで付き添ってきましたし、彼女も恐らく大丈夫かと。」

「では、そうしましょう。」


予想もしていなかった指摘に、修二は今後について考え始めていた。

この関係を終わらせなければならないのか。

里美のこと、仕事、何より子どもたちの事が気掛かりで仕方なかった。

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