流れ出るもの
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利佳子が見舞いにやってきた。
そんな中訪れた里美の変化に対応するのは流石の行動だった。
目の前で起きている現実がどういう事なのか、利佳子だけは理解していた。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
利佳子は母親のクリニックを継ぐため、里美や修二が現在も所属している組織の仕事を辞めた。
国際公務員という安定した職を離れてでも医師になる道を再び選択し、それを叶えるため今現在歩んでいる。
母親のクリニックを継ぐという事は、産科を選ぶのだろうし既に学んでいるだろう。
そのような理由から里美は自身のの身体の事について、利佳子に相談したのだ。
「私がここで診察するわけにもいかないし、そもそも私も医者じゃないからね。まずはこの事をナースか医師に伝えること。里美はここに入院中だから提携の病院で見てもらえるんじゃないかしら。婦人科系の病気もあるかもしれないし、ちゃんと検査しておきなさい。」
「そうよね、お腹も痛いしこんな長く続くのは変よね。」
「そうした方が良いんじゃないなはさら?それにしても修二くんはまだかしらね。そろそろ私も帰らないと…晴のお迎えもあるし。あなたの子ども達は元気なの?」
「色々と気掛かりはあるけどね。三人とも元気よ。」
利佳子もすっかり母親をやっているのだと実感する。
恋人の存在すら感じなかったあの頃から数年で人間はこんなにも変わるのかと、性格も表情も変わった利佳子を見て里美は同じ母親として嬉しくなった。
「今日は来てくれてありがとうね。下まで送るわよ。」
里美はベッドから降りようと脚を床に下ろすと下半身の異変を感じた。
床にしゃがみ込むと、里美は顔面蒼白になりベッドの布団を握りしめていた。
「あっ…待って?何か…あれ、っん…痛い。」
「里美?どうしたの?」
「ごめん、あれ?私、出血してる…」
「血?とりあえずナースコール押すわよ。」
里美は自分の下半身へ視線を落とすと、流れ出る感覚に合わせてパジャマが血に染まっていることに気づいた。
利佳子はこの時、幾つかの状態を疑っていた。
下着に付けているはずのナプキンでは受け止められるわけのない量の出血であることは明らかだった。
「はい、どうされました?」
「バスタオルと手袋と大きめの膿盆を!早く!手袋はゴムじゃない物を頼むわ。」
「えっ?」
「早くって言ってるの!」
「はい!」
利佳子は里美を落ち着かせ、部屋にあったタオルを着衣のまま股に押し当てる。
そこへ看護師がやってくると先ほど伝えた物を受け取る。
「彼女を救急で産科に搬送して下さい。それから私は医学生です。異所性妊娠の疑いがあります。」
異所性妊娠と聞けば看護や医療を学んできた者であれば、緊急度の察知は付くはずだ。
部屋から看護師が出て行くと、痛みと出血が酷いのであろう里美は自分の身体を支えられずその場に倒れ込んだ。
「里美ほら、これに寄りかかりなさい。あなた一体これどういう事なのよ。」
利佳子は椅子を差し出しそこへ上半身を寄りかからせると、至って冷静に話しかける。
最悪の場合を想定し看護師へ救急搬送を依頼したが、もう一つ別の場合も想定していた。
「ちょっと悪いけどズボンとショーツ、下ろすわよ。」
里美が跪く足元にバスタオルを敷きズボンを下ろすと、出血を受け止められなかったショーツに当てたナプキンが真っ赤に染まっていた。
その中に幾つかのか塊を見つけると、利佳子はそれを膿盆へと移す。
「あ……んんっ、何か…」
里美は下半身の違和感を捉え、何かが出そうな感覚を覚えた。
「利佳子、あぁ…何か出そう…」
「いいわよ、出してみて。」
「んんっ…」
里美はグッと下半身に力を込めると、股に添えられたバスタオルの上には更に大きな塊がグチュグチュっと言う音と共に落ち、それを利佳子が受け止める。
「やっぱり…」
「ちょっとフラフラする。横になりたい…」
里美の顔色は悪く、冷や汗で前髪が濡れてその場に姿勢を保たずにいた。
そこへ修二が戻ると、病室内のあまりの状況の変化に戸惑った。
下半身を出し足元を血で汚し、どう考えてもこれらは病室で行う行為ではないだろう。
「桃瀬、これ…利佳ちゃん何事?」
「後で話すわ。とりあえず里美の身体を支えてあげて。この子貧血起こしてるから。」
言われるがまま里美を支えると、その身体は出血へと体重を預ける。
利佳子は修二を厳しい目で見つめ、出血と共に落ちたその塊を盆の上に取り分けた。
そしてその中の白く大きめの塊を里美に見せた。
「これ、赤ちゃんよ。」
「なっ…」
「これがそうなの。里美、出血が多いって話してたでしょ。それ、流産の前兆ね。子宮外妊娠かとも思ったけど、それは違いそうよ。」
「修二くっ、助けて…」
修二は里美の横へ駆け寄り、背中を撫でた。
まだ状況を読み取れず、動揺する修二にも利佳子は容赦なく幾つかの塊を見せる。
「修二くんもちゃんと見て!これ、あなた達の子よ。」
「あ、あぁ…」
血に汚れた白っぽいビー玉より少しい大きいサイズの存在を見せつけられ、修二はそれ以上何も言えなかった。
自分の目の前で起きている事が現実なのか、なぜそんな事になっているのか、生々しい物体を目の前に修二も吐き気に襲われる。
…
里美が担架に乗せられ救急車に乗せられると、利佳子は救急隊に状況を説明する。
「異所性妊娠ではなさそうです。恐らく流産、出てきたものは可能な限りここに入れてあります。このまま搬送先で渡して下さい。」
「色々とありがとうございます。あなたは?」
「彼女の友人で母親が産科医の、ただの医学生です。」
利佳子は膿盆を手渡した。
看護師から礼を言われると、利佳子は会釈をした。
「それじゃあ私もお迎え行かないと。修二くん、里美について行くんでしょ?後であなたには話があるから宜しくね。」
「俺も子ども達の迎え行かないと。」
今までに見たことのない利佳子の自分に向けられた鋭い目付きに、彼女の話の内容は容易に想像できた。
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