家族の別れ
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修二は友人であり同僚でもある人物へ、里美の状況を明かした。
それまで誰にも明かして来なかった現状を伝え、修二もとあることを心に決めた。
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里美の意識が戻った翌日、家には久しぶりに家族五人が揃った。
意識のない間ママを求めていた三人も、変わってしまった里美の様子を察して甘えることはしなかった。
その分、修二は子ども達との関わりに努力したが、それもそろそろ限界だった。
仕事だってそう長くは休んでいられないし、里美が再び同じ事を繰り返さない保証もないのだ。
「隼人、俺。悪いが夜うち来られるか?時間は任せる。話したいことがある。」
「話?いいけど九時くらいになると思うぞ。」
「それは構わない、色々悪いけど頼む。」
電話相手の隼人は、修二の元気のない声に何か不穏な気配を感じていた。
一昨日辺りからコホコホと席をしていた愛梨。
寝室からは眠りながらも咳をする音が聞こえ気になっていた。
…
その夜、何かを感じた隼人は賀城家へ二十分程早く到着した。
「悪いな…」
「構わないが、桃瀬ちゃんどうした?」
「あいつ、実はもうずっと何ヶ月もあんなんだ。鬱なんだと。でさ、この間帰ったら酒で薬飲んでて運ばれた。」
「自分で死のうとしたってこと?」
「わかんねーけど…意識戻るまで五日あったんだけどさ、それも桃瀬にとっては『そんなもん』な期間だったらしいぞ。」
「何でそうなったんだよ?けど、確かに前に会った時…」
「あの時の発作の事だよな。
桃瀬がこうなったのは、遡れば双子を身籠った頃からなんだと思う。
俺にも原因はあるんだ。今思えば後悔だらけ、あいつがこうなるなんて想像できないだろ。」
隼人は何と返して良いのか分からず、目の前のコーヒーを啜る。
すると寝室からは聞こえて来た愛梨の泣き声。
「悪い、ちょっと行ってくる。」
「はいよ。」
別室で休んでいる里美はきっと愛梨の夜泣きにも体調不良にも気づいていないだろう。
今は余計なストレスを掛け、再び同じ様な事を起こさせるわけには行かないのだ。
「愛梨、おっきしちゃったか。大丈夫?」
「コホっ…コホコホ…ぱぱぁ…ゲホっ…」
ヒックヒックと泣きながら甘える愛梨を抱くと、背中を上下に摩り呼吸を落ち着かせる。
仕方なく愛梨を抱いたまま隼人の元へ戻り、話しながら寝かしつけることにした。
「あれ、どうした?なんか大っきくなったな。てか、どっちだ?愛梨か?」
「愛梨だよ。一昨日くらいから咳しててさ、今夜は酷いんだ。」
「縦抱きの方がいいぞ。横にしてると咳が出やすいからな。」
隼人のアドバイス通り縦抱きに変えると、小さな愛梨をブランケットで羽織り修二の身体は自然と前後に揺れていた。
「修二もすっかりパパだよな。…ってことは仕事行きながら一人で育児してんの?」
「桃瀬が倒れた後、職場には話して二週間休みもらったけどそんなんじゃ治るわけないんだよ。」
「だよなぁ…」
「最初の半年は桃瀬も薬飲みながら育児してたし、病院からはフルタイムで復帰する案も出てたんだよ。子ども達と離れて自分の時間もできるし、それもアリなんじゃないかって。
それにあいつ、今までも仕事では上手く行ってたからな。」
「頑張ってたんだな、桃瀬ちゃんも修二も。」
修二は愛梨のまだまだ赤ちゃんな髪を触りながらそう語ると、その顔はかなり疲れ切っているように見えた。
「やっぱり元気そうに見えてもダメだったんだよな。このまま治るんじゃないかって、本当に鬱なのかって疑問もあったし頼っちまってた。この歳の三人は大変だよ。」
「そりゃあそうだよ。亮二だってまだ二歳だろ?うちは男の子は育てた事ないけど、明らかに大変だろうし…それに双子だろ。」
「そう、その亮二の事も色々あってさ。言葉が遅いって言われたらしくて、その事でも悩んでたっぽかった。」
「そうなの?亮二喋んないの?」
「俺からしたら普通だと思うけどね。確かにまだ単語が多いけど言葉の意味は伝わってるし、まだまだこれからだろうにさ。元気ならそれでいいじゃんね、あいつは亮二を早産で産んだ事をずっと自分のせいだと思ってる。だから、言葉の件もきっと自分を責めてるはずだ。」
言葉の事だけではない。
早産児として産んでしまったことでの発達の遅れを、里美は気にしていた。
亮二の事だけではない、愛梨と優梨も同様だ。
双子に関しては呼吸器の弱さが産まれた時から不安視されていたし、風邪も拗らせるわけにはいかない。
隼人は自分の娘たちが同じ年齢の頃を思い出していたが、もうすっかり忘れていた。
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