妻の事情

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里美の行動、それはいつも冷静な修二を動揺させた。

それでも前に進むしかない残された家族は、現状を報告する為職場へと向かった。

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人事部

指紋認証を終えると、扉が開き中へと進む。

約束を取り付けていたミーティングルームをノックすると、入室の許可を得る。


「賀城です。お時間いただき、ありがとうございます。」

「ご苦労様。あら…お子さん?どうしたの?」

「今日は急で預け先が見つからず申し訳ありません。その、今日は妻のことでご相談があります。」


修二はいつまでも職場に今の里美の状況を伝えない訳にはいかないと思っていた。

本来の育休からの復職時期は既に決まっているわけで、先が見えぬ今、現状を伝えておくべきと判断したのだ。

家庭内で里美の人力を失っている今、このままでは医師の指摘通り本当に共倒れしてしまうだろう。


「妻は今、意識がなく入院しています。」

「…っ、どうして…桃瀬さんよね?」

「産後うつを拗らせて、昨日自分で薬を大量に飲みました。子ども達の目の前で…育児もままならない自分をきっと責めての行動だと思います。」

「いつからこんな状況だったの?」

「恐らく、最初はこの子達の上の子の産後から。下の子を妊娠中もそうだったんだと思います。あの頃は長男を産んで直ぐでしたから、きっと。

ですが自分はそれに気づけずドイツ行きで仕事ばかりになっていました。」

「ずっとそんな中であなた達は子育てしてきたの?」

「はい。」

「何で言わなかったのよ。以前も貴方には話したはずよね。」


凛とした姿で説明する修二。

修二は今まで、家庭のことなど職場に持ち込むものではないと思って来た。

それが当然だと思って来た。


「賀城くん。あなたは最近どうなの?こっちの組織に移って、向こうにいた頃も良くやってくれていたようね。

我々にそのようなつもりはないんだけど、あちらはまだ我々に敵対心剥き出しなの。あなたのドイツ行きのこと、銃撃の事や奥さん…桃瀬さんのことも申し訳なく思っているわ。」

「向こうの事は勿論把握しております。きっと今後の育休からの復帰もこのままでは厳しいと思います。なので今日は現状をご報告に参りました。」


修二は淡々と伝える。


「今はお子さんたちが居るから手短に話すけど、賀城くん、しばらく休んで桃瀬さんに付いてあげなさい。

ニ、三週間休暇を取ると事情については私が上に話しておきます。

意識が戻るまでは勿論、退院してからも一緒に家事や育児もして少しずつまた色々なことに自信を持たせてあげるの。外にちゃんと出て、引きこもるのはダメよ。」


あまりにも的確なアドバイスだ。

この人は同様の経験があるのだろうか。

修二は何かを感じたが、その言葉をありがたく受け取った。



「二人とも、ちょっとだけパパのお仕事の部屋に行ってから帰ってもいいかな。」

「いこっかー」「ちまじろーあるのー?」

「しまちゃんは無いかな。」

「なにあるー?」

「何だろな。パパのお仕事のお部屋、今日は特別だからな。」


ちょこちょこと歩く双子と手を繋ぎ、修二はしばらく来られなくなるであろう自分の執務室へ向かい荷物をまとめる。

今の職場は前研究所のレイアウトを採用していることもあり、執務室内もそれまでとあまり変わりは無かった。

職務内容も大きくは変わらず、ただ業務内容を細分化したようなシステムだったが、相手側との揉め事はいまだ収束していないらしい。

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