父と娘
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声をあげて泣いた。
幼い子どもたちの前では見せられぬその姿は、それまでには見られなかった修二の姿だった。
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病室で眠る里美は、まるでいつもの様に眠っているだけなんじゃないか、陽が登れば再び寝ぼけた顔で『おはよう』と声をかけてくれるんじゃないかと思うほど穏やかな寝顔だった。
あんな事があったにも関わらず、本人は深い眠りについている。
「何でだよなぁ…」
目の前の里美を見つめながら、心の声が漏れる。
修二も日中勤務を終え帰宅したままの身、疲労感が半端無かった。
できることなら意識が戻った時にこの場に居てやりたいが、小さな三人が一緒ではなかなか厳しい。
「賀城さん、お子さんたちここの空きベッド使っていいですよ。夜中に疲れちゃいましたよね。」
「すみません、助かります。」
ベビーカーで眠る双子と、修二の腕に抱かれた亮二。
三人とも天使の寝顔だ。
何よりこの天使たちを産んだ里美には感謝しかなかった。
何としてでも幸せにする、そして家族皆んなで生きて行く。
こうなってしまった事に対し、それは自分のせいなのかもしれないと修二はこの時初めて自分を責めた。
空きベッドに子どもを寝かせても良いと許可を得て、腕に抱いていた亮二だけ起きてしまわぬようそっと置くと、そのまま胸元をトントンと叩く。
子どもの一時的な預かりや友人の伝を思い浮かべ脳内で手繰り寄せたが、夜中であることや急であることからそれは厳しいだろう。
朝、一か八かで一時保育へ問い合わせ、再び里美の元へ来る事を決めた。
「もう暫くしたら一度自宅に戻って、午前中にまた来ます。」
「わかりました。」
修二は悩んでいた。
『仕事への復帰はやはり無理だろう』
里美が仕事に復帰することは悪いと思わないが、復帰する際は元々の職場ではないし、大元は同じ機関ではあるがはっきり言えば別組織なのだ。
不慣れなこともあるだろうし、それがストレスにならないだろうか。
仕事である以上勤務中ずっと付き添う訳にはいかないし、一度復帰は持ち越すべきだと思っていた。
このまま強行突破しては更にダメになるのは目に見えていた。
里美の事をよく知る利佳子も現在は仕事を辞めた事もあり、賀城家の現状を信用して打ち明けられる人物は他に思い浮かばなかった。
自宅に帰り、三人を寝かすと不安な思いを洗い流すかのように修二はシャワーを浴びる。
シャワーに打たれながら涙を思いっきり流し、声をあげて泣いた。
自分がこんなにも泣く事があるのか。
誰に助けを求めたら良いのか。
子どもたちをどう守れば良いのか。
このままでは自分がダメになりそうだ。
あまりにもショッキングな出来事からまだ数時間、いずれ時の流れが解決してくれるのかもしれないが、今は修二も細い糸で何とか気持ちを繋いでいる状態だった。
数時間もすれば再び慌ただしい一日が始まる。
…
翌朝、修二は双子を連れて出勤すると人事部へと足を運んだ。
職場内の一時保育は一人なら預かれるが三人は空きがないとのことで、一番手の掛かる亮二だけ頼むことにした。
人目は気になるが、愛梨と優梨を連れて出勤したのだ。
流石に施設内へ大型の双子用ベビーカーは迷惑だろうし目立ってしまうこともあり、二人には頑張って歩いてもらう。
「頑張ってあんよして。そうだ上手だぞ、二人で手つないで。そう、いい子だ。」
「あーちゃん、そっちは違うぞ。行かないの、こっちだ。」
しかし、兎に角先に進まない。
突然立ち止まったり視線に入ったものへ向かい進んだり、好奇心いっぱいの二人は見るもの全てに興味いっぱいなのだ。
「くっくがぁ…」
「あぁ、靴脱げちゃった?」
靴が脱げたと訴える優梨の元へしゃがみ膝に乗せて履き直させるが、好奇心旺盛な愛梨を抱えている事もあり片手でこなす。
「あっこしゅるー!」
愛梨も抱っこして欲しいと修二に甘える。
その場を通り過ぎる人々は、勤務中の賀城修二ではない、パパとして奮闘する姿に目を細めた。
「泣かないであんよできるの?すごーい!上手かなー?あーちゃんとゆーちゃんがいい子にあんよしてくれたらパパ嬉しいなー」
二人をおだて、褒めて自分で歩かせた。
今朝、フワフワでカールした柔らかい髪を二つに結ぼうにも二人は嫌がり修二にはできなかった。
里美はどうやって二人の髪を毎日可愛く結んでいたのだろうか。
小さな一歩一歩が進むたび、愛梨と優梨の肩まで伸びた茶色い髪がフワフワと揺れる。
母親にしかできないこと。
髪を結うことだって、里美にしかできない立派な事なのに。
「あれ?賀城さん、お子さんですか?」
「まぁな、ちょいと今日は色々と諸事情があってね。」
「可愛いねぇ。お名前は?」
「あーちゃん!」
愛梨の元気な声と反対に、人見知りのある優梨は下を向き黙ったままだ。
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