意外な提案

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里美に訪れる変化に医師は医学的な提案をした。

家族を巻き込むその提案を受け入れるのか否か。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ほらな、来た。」


過呼吸の症状だ。

里美は以前にも何度か過換気症候群の症状が現れている。


「あっ、息が…っ……」

「わかってる。俺がいる、大丈夫だから…ちゃんと息吐いて。」

「はっ…はっ、あ…っ、っ、はっっ…はぁっ…」

「落ち着いて、ゆっくり吐くんだ…ゆっくり…そうだ、大丈夫だ。」


口を窄め、修二の指示通りゆっくりと息を吐き落ち着きを待ち、どうすれば良いのか里美自身もわかっていた。

修二の大きな腕の中に収まり、手と手を握り合うと物凄く安心した。


涙を流し、目を閉じ、苦しそうに訴えるその姿を目の前にしても、修二の対応は手慣れたものだった。

背中を摩り感情を落ち着かせつつ、息を吸うことよりも吐き出すよう促すのだ。


里美の場合、今回のような感情を荒げた時に症状が出やすく、何より過去にパニック障害と診断された際には度々その症状に寄り添ってきた。

それは昔、かつて同棲していた二十代初めの頃のこと。

もう十年も前のことだ。


あの後、二人はそれぞれの道を行く事を決め修二はその後の事は気にはなっていたが、診断の後どう生活していたかは知らなかった。


今回、初診時の話では『暫く服薬して良くなった』とは聞いていたが、改善に至った経緯までは分からずにいた。

友人、家族…恋人の支えがあったのだろうか。


別れた直後、修二は就職してすぐにドイツに渡ったし、あの頃は他人の事を気にかける余裕もなかった。

別れた彼女には尚更、その時は彼女の友人へ状況を説明し見守るよう託していた。


「…落ち着いた?」


修二の腕の中で落ち着きを取り戻した里美の顔は疲労感でいっぱいだった。

そのまま強く抱きしめると、修二は心の中を巡る様々な思いを伝えた。


「不安もいっぱいだろうけど、俺はちゃんと寄り添っていきたいし良くなって貰いたい。だが、子どもなんか要らなかったとか、そういう事は言うもんじゃないぞ。」

「…ごめんなさい。言っちゃいけないってのは分かってた。だけど、あの子達が居なかったら今頃どんな生活してたんだろうとか、仕事をして楽しかっただろうとか、それに修二くんとの生活も。旅行とかデートとか、もっと出来ただろうなって。」


授かり婚ではあったが、あの子達は二人して望んでやってきた子どもであることに間違いない。

結婚は早かれ遅かれするつもりだったし、仕事の状況や悪阻、里美の入院の都合であのタイミングになっただけなのだから何も間違えてなんていないのだ。


「無いものねだりだよ。俺らの事を羨ましく思ってる奴もきっといるぞ。こんな可愛い奥さんと結婚して、子どもも三人。男の子も女の子も両方いるんだ。こんなに恵まれてる。」

「私だって今は子どもが一番なの。亮二も愛梨も優梨も、みんな愛さしてるし大好きだし大切。だから私はどうなってもいいと思ってるの。修二くん…もしもの時はお願いね。」

「バカなこと言うなよ。」


自然とキスを交わすと、修二の包容力と心の広さに改めて気付き、里美はこの人で良かったと心から実感した。


発達障害は治るものではなく、うまく付き合っていくもの。

治せる部分は完治を目指す。

医師から伝えられた言葉を改めて振り返り、里美はそうなりたいと願った。



子ども達の乳児健診。

三人とも予定日より数ヶ月早く誕生し、成長の過程を定期的に見ていくのだがそこで今回指摘されたらしい。


「亮二ね、ちょっと言葉が遅めだって。」

「そうか?ママもパパも言うよな?」

「もうこの年齢の子だと、もう二〜三語文も話す子がいるんだって。亮二はまだそんなの聞いた事ないもん。」

「気にしてなかったけど、そうな言葉が遅いのか…?」


ただ、現状は経過観察で良いとのことらしい。


翌週の心療内科受診日。

里美は担当医に息子の言葉の件を伝えた。


「里美さんはご自宅で言葉を発する事が減ったと聞いていますが、ご主人から見て今はどうです?」

「今もそうだと思います。」


修二は以前のよく話し、よく笑う里美の姿をもう半年以上目にしていなかった。

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