運命って、変えられるんだろ

 陽向の退院日は、やおよろズが帰還する日程と重なっていた。俺は愛すべき妹を盛大に出迎えてやるため、家のベランダから横断幕を垂らそうと四苦八苦した結果、見事に転落した。幸い、植木がクッションとなり骨折は回避したのだが、無駄な怪我である。デリ子もみほろも心底呆れていたが、これに関しては返す言葉もない。しょんぼりとしながら、リビングで大人しく腰を擦るしかなかった。


「人間って、ここまで妹を愛せるものなんですね」

「あら、デリちゃんは兄弟とか居ないの?」

「はい。ハートやよっちんに聞けば、姉弟愛はわかるかもしれないですけど」


 どこか投げやりな回答である。


「なんでその二人なんだ」

「……語るのも癪なんですけどね。ハートの本名はタケミカヅチですよ。タケミカヅチノミコトです」


 デリ子の衝撃発言に、俺は思わず大声で反応してしまう。神様やら仏教には疎いが、タケミカヅチノミコトくらいは名前を知っている。奈良の春日大社かすがたいしゃなどに祀られた、有名な神ではないか。


「……なぜ、ハートと名乗っているんだ」


 俺が疑問を呈すると、みほろが見解を述べた。


「ミコトを命って書くからじゃない?」

「命はライフだろ」

「そっか。ハートは心臓とか心だよね」

「アイツは馬鹿ですし、間違えてるだけですよ。で、よっちんはワクムスビです。ハートは弟神にあたるそうですよ」


 これにはみほろも驚いたようで、シュークリームをテーブルの上にぼとりと落としてしまう。たしかに、奇人同士で似通った雰囲気は漂っていた。


「よっちんって、他人の名前に氏を付けて呼ぶのが癖なんですけど――今思えば、アイツのことだけ呼び捨てだったんですよね」


 デリ子はぽてぽてとゴミ箱まで歩き、慣れた手付きでアイスの棒を捨てた。そして、二本目を取り出そうと冷凍庫に手を伸ばしたが、疾風と化した母さんがデリ子を容易く取り押さえた。久美浜家には、アイスは一日一本までの掟が存在するのだ。


「さ、そろそろ陽向を迎えにいかなくっちゃね」


 デリ子の動きを完全に封じながら、母さんは笑顔で言い放つ。母は強し。いくら神とはいえ、久美浜家に組み込まれてしまえば矮小な存在と化す。母こそが神なのだ。白目を剥きながら母さんの腕をタップするデリ子の姿を眺めつつ、この日常も長くは続かないのを、胸のどこかで感じていた。



 つつがなく時は進み、二月三日を迎える。

 この一年間は、天界どころか人間界にまで影響を及ぼす事態に、権威のある神々が動いたに過ぎない。人間と神は本来であれば交わらないし、交わったとしても、同じ時を過ごすにはあまりにも寿命が違いすぎる。俺たちにとっては濃密な一年間だったが、千年以上も生きる神にとっては、人間の一時間に等しかっただろう。目の前には、あの日と変わらない景色が広がっている。薙ぎ払うように食料を買い込む陽向を引っ張りながら、みほろと共に大元宮を目指す。


 やおよろズの面々は、すでに現地に居るらしい。一年間にも渡る契約の満了日とはいえ、神々には本業がある。


「千晃にい、急ぎすぎ。まだ時間あるでしょ?」


 はしまきを頬張りながら、陽向が抗議する。すっかり元気になった陽向は、入院前よりも食欲が増した。細い身体のどこに収納されるのだろう。以前、なんとなしに陽向に質問したのだが、「女の子にそんな質問しちゃ駄目」とみほろに釘を刺されてしまった。みほろと付き合って四ヶ月もの時が経過したが、未だに女心とやらは掴みきれていない。


「うん。ゆっくり食べてていいよ」

「さっすがみほろさん、ありがとうございます!」


 陽向はすでに、みほろに絶大な信頼を寄せているようだ。彼氏としては喜ばしいのだが、兄としては複雑である。俺の様子を察したのか、みほろは薄く笑いながら「嫉妬しないで」と頬を抓ってくる。


 やおよろズとの待ち合わせは、火炉祭かろさいの時間帯を指定されていた。火炉祭とは、二月三日に行われる儀式であり、三メートルほどの大きさの火炉に括り付けた御札や御守を盛大に焚き上げるものだ。


 陽向が「追加投入してくるね」と宣言し、意気揚々と露店の群れに飛び込んだので、俺とみほろは取り残されてしまう。その機を見計らったように、みほろが距離を詰めてくる。もはや説明不要の近さで。


「ねぇ、ちあきち。私のこと、好き?」


 突如、みほろが問うてくる。


「い、いきなりどうした」

「……私たちってさ、御利益で出会ったじゃん」


 人の流れを避けるように、みほろは俺の手を引いて茂みの裏に誘う。数メートルも歩いていないのに、周りの喧騒がやけに遠く感じる。風の音も、祭の音も耳に届かず、聴覚はみほろの息遣いだけに集中していた。


「契約が終わったら、別れちゃうのかな」


 みほろは俺を木に押し付けるようにして、顔を近付けてきた。が、表情には陰が差しており、不安や疑心に支配されているのを直感的に理解してしまう。たしかに、俺とみほろが出会ったのは、デリ子の御利益によるものだ。俺が最初に危惧していた通り、世間一般で認知される恋だとは、断言できないかもしれない。


「そんなの、嫌だなって。ごめんね、変なこと言って」


 自嘲するような笑みを貼り付けて、みほろが身体を離す。前髪の隙間から覗いた瞳が、露店の白熱電球を吸収し、大きく揺れている。


 このままじゃ、いけない気がした。


「俺だって――嫌だ」


 みほろの肩を掴み、力づくで引き寄せる。黒のダウンジャケットがクッションのように、ふわりと衝撃を吸収した。お互いの呼吸が混ざり合う。


「出会いに関しては、御利益に仕組まれていたと思う。でも、契約が切れて、たとえ御利益が無くなったとしても、俺はまたみほろを好きになる」


 髪の香りが、鼻に届く。


「そんなの、わからないよ」


 みほろが俺の首筋に顔を埋めたまま、涙声で呟く。


「運命って、変えられるんだろ」

「……えっ?」

「みほろが言ってた。願いを叶える七つの玉は無かったけど、みほろは間違いなく俺の運命を変えてくれた存在だ。いや、変えた結果も含めて、始めから運命だったのかもしれないけど――」


 自分で言いながら、訳がわからなくなる。俺は頭をがりがりと掻きむしり、ばつの悪さを誤魔化すように、みほろを抱きしめる腕に力を込めた。


「とにかく、俺は笠置みほろが大好きだ。御利益の効果が無くなって、元に戻ったとしても、運命を絶対に捻じ曲げて何度でも好きになってやる。シスコンの粘着性をナメるなよ」


 はっと顔を上げたみほろと、至近距離で見つめあう。宝石のように綺麗な瞳と、すらりと整った鼻梁。血色の良い唇が、誘うように薄く開いた。勘違いでないことを祈りながら、唇を重ねる。吐息が温かくて気持ちが良いとか、少し歯が当たった気がして恥ずかしいとか、様々な感情が頭の中を縦横無尽に駆け巡り、幸福に浸る余裕などありやしない。ほんの僅かな時間なのに、永遠のように長い気がする。


「ちあきち」


 唇を合わせたまま、みほろが言葉を放つ。俺は急に恥ずかしくなってしまい、慌てて顔を離してしまう。みほろは目を丸くしたのちに、少し残念そうな顔で笑った。


「大好きだよ」


 みほろが俺の手を引きながら、逃げるように茂みを抜け出して、参道に戻っていく。受け答えだったり、シチュエーションだったり、タイミングは果たして正解だったのだろうか。ファーストキスの余韻などまるでなく、自問自答ばかりが脳内を埋め尽くす。負のスパイラルに陥りそうになるが、こちらに背を向けて座る陽向の姿を見て、今はやろおよズとの別れに集中すべきだと割り切った。


「いっぱい買い込んだね」

「お祭りの焼きそば、好きなんですよ」

「私も好き。素朴だし」

「じゃあ、一口どうぞ!」


 先程のやり取りが嘘のように、みほろは普段と変わらぬ調子で陽向と会話を交わす。みほろに焼きそばを差し出した陽向が、俺の元にも寄ってきて、「千晃にいも食べなよ」と、もう片方の焼きそばを突き出してくる。そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。困惑しつつ、焼きそばを頬張ると、陽向が耳元に顔をぐっと近付けてきた。


「やるじゃん、千晃にい」


 思わず、焼きそばを噴出する。


「おい、まさか見てたのか」

「さぁ、どうでしょう」

「なぁ陽向。頼むから教えてくれ」

「しつこい。これがシスコンの粘着性かぁ」


 愉快そうに笑う陽向を見て、確信してしまう。間違いなく、あの恥ずかしいやり取りを全て見られていたのだ。兄の尊厳は木っ端微塵に砕け散り、節分祭に吹き荒ぶ二月の旋風が破片を攫った。



 火炉祭の時間が差し迫っている影響もあり、大元宮周辺の人手は激減していた。ここまで静かになるのかと驚いたが、やおよろズが何かしらの力を用いて、人払いをしているのかもしれない。社殿に近寄ると、やけに疲れた表情のやおよろズが腰を下ろしていた。


「やあマスター、よく来てくれたね」


 こちらにいち早く気づいたハートが、いつものウィンクを披露する。不思議なもので、この面倒臭いやり取りも今日で最後だと思うと悲しくなる。


「色々あったけど、マスターやプリンセスのおかげで万事解決したよ。犠牲は大きいけど、守れたものはもっと大きい。ただ、マスターやサンシャインエンジェルにも迷惑をかけてしまった。本当に、すまなかった」

「そんなのは、もういいよ」


 原因はデリ子の神去病だが、本人達とて望んだ結果ではない。誰も悪くないのに、誰かを責めるなんてできやしなかった。サンシャインエンジェルこと陽向も気にしていないようで、「頭を上げてくださいよ」と軽い口調で笑っている。


 どこか遠くで、拍子木の音が一つ鳴った。


「あ、追儺式ついなしきが始まりましたね」


 デリ子が福豆をぽりぽりと齧りながら、他人事のように呟く。


「さて、そろそろ時間かなぁ」


 よっちんがハートの肩を持ちながら、よろよろと立ち上がる。滝かと見まごうほどの喀血量だが、周囲が特に気にしていないあたり、通常営業なのだろう。


「僕は裏方だからあまり活躍できなかったけど、君たちと過ごした時間は刺激的で楽しかったよぉ」


 もさもさした髪を揺らしながら、よっちんが笑い掛ける。嘘みたいな瓶底眼鏡が、俺の顔を映し出している。涙が溢れていた。その事実に初めて気が付き、自分でも戸惑ってしまう。


「人間にとっての一年間は、思い出として残るには十分すぎる期間だもんねぇ。率直に、嬉しいよ。ありがとうね、千晃氏」


 よっちんが握手を求めてくる。俺がそれに応じると、桃色の輝きが大元宮を包み込み、よっちんの姿を跡形もなく消し去った。手の甲の刻印が、三つに減っていた。


「僕達の姿は、契約しないと見えないからね」


 きょろきょろと辺りを見渡す俺を、ハートが慰めるように頭を撫でてくる。そして「スペシャルエンジェルはここにいるけど、もうマスター達には見えないよ」と呟いた。


「じゃあ……もう、会えないのか?」

「そうだね。またマスターと契約せざるを得ない異変が発生したら会えるけど、まず無いだろうね。僕たちが人間界に赴くなんて、数百年に一度あるかないかの事態だから」


 その言葉で、やおよろズとの別れの意味を再認識してしまう。心のどこかでは、また会えると思っていた。そう信じていた。だが、人と神は本来交わらない存在なのだ。月明かりに照らされるハートの姿が、どこか儚く映る。


「マスター。そんな顔をしないでおくれ。僕たちはいつでも見守っているし、マスター達と過ごした日々を決して忘れないよ。月並みな言い方になるけど、この胸に刻み込んでいるからね」


 ハートが白いジャケットを勢い良く開き、ポーズを決める。なんだか急に馬鹿らしくなってしまい、俺は盛大に吹き出してしまった。


「うん。僕が見たかったのはその顔だよ、マスター」


 ハートが満足そうに頷き、右手を差し出してくる。やたらと頻繁に飛び出すウィンクも、辟易するほどのオーバーリアクションも、すべて場を和ますために行っていたのだろうか。風で揺れる金髪を眺めながら、そんなことをふと考える。


「どうしたんだい?」

「……いや、なんでもない。色々、ありがとうな」


 考え過ぎか。俺は雑念を振り飛ばすように首を動かし、ハートの手を握った。先ほどと同じような光に包まれ、大元宮から二人目の神が消えた。


「ヘルちゃん、本当に帰るの?」


 みほろが悲しそうに声を漏らす。ヘルちゃんの姿は激変しており、ピアスや染髪こそしていないが、みほろ二号と名付けても差し支えのないファッションである。それだけに、みほろの溺愛っぷりが伝わってしまう。


「そっか……そうだよね」


 ヘルちゃんは耳打ちで、みほろと会話を交わしている。自分の妹のように、ヘルちゃんと手を繋いで歩くみほろの姿を、まざまざと思い出してしまう。


「シティポップ、ちゃんと聴いてるから」


 みほろの言葉に、ヘルちゃんが涙目で頷く。ハートやよっちんと異なり、神とはいえまだ子供のヘルちゃんは、別れる行為に慣れていないのだろう。


「ご飯、しっかり食べなよ」


 ぷつぷつと、みほろの言葉が大元宮に溶ける。


「その服、洗濯機で回したらダメだよ。洗濯機があるのか知らないけど」


 みほろは泣き笑いのような表情で、ヘルちゃんの頭をくしゃくしゃにした。そのやり取りに涙を堪えきれず、俺と陽向はすすり泣くばかりだった。


「……ちあきち、もう大丈夫。余裕」


 みほろは手の甲で目頭をぐりぐりと擦り、気丈に振る舞った。後でしっかりと慰めてやらなきゃなと決意しながら、差し出されたヘルちゃんの手を握った。桃色の光が消え、手の甲の刻印が残り一つとなる。俺は陽向の肩を押し、相変わらずぽりぽりと咀嚼音を響かせる神と向かい合う。デリ子と過ごした思い出が、頭の中の映写機で映し出される。最初はいけすかない神だった。契約をやたら後出しにする、生意気な子供としか思えなかった。だが、いつしか久美浜にとってかけがえの無い存在と化し、妹だと認めざるを得ないポジションに君臨した。


「……デリ子」


 この名前は、もう絶対に忘れない。この思い出は、何が起きても色褪せない。


「デリちゃん」


 陽向の言葉は震えていたが、別れを決意したような力強さも帯びていた。とてつもない悲しさが、胸を巣食っているに違いない。だが、陽向は笑顔で別れを告げたいのだろう。お兄ちゃんとして、その心意気に水を差すわけにはいかない。こみ上げる涙をぐっと我慢して、もう一人の妹の瞳を捉えた。


「あ、もう終わったんですね」


 が、やけにあっさりとした言葉。なにより、デリ子の瞳はいつもに増して間抜けな色を含んでいる。様子がおかしい。いや、そもそも、デリ子はさっきからずっと他人事だった。いくら厚かましいとはいえ、別れのタイミングで福豆をぽりぽりと貪るだろうか。


「じゃあ、お家に帰りましょっか」

「……は?」


 デリ子の言葉に、二の句が継げなくなる。


「デリちゃん? ど、どゆこと?」

「え、いや。私はまだ契約が残ってますし」


 いけしゃあしゃあと、言ってのける。


「おいデリ子、説明しろ」

「延長したじゃないですか」

「知らん、身に覚えがない。いつの話だ?」

「私が復活したときですよ」


 記憶の海に身を委ねる。神去病から復活を遂げたデリ子と再会したのも、今立っている大元宮だ。山下達郎の歌声と共に現れたデリ子は、泣きながら俺の腰に飛びついて、それから。


「握手したでしょう、握手」


 デリ子が「やだなぁ」と腹をぺしぺし叩いてくる。俺の記憶が正しければ、握手をした際に桃色の光が大元宮を包み込んだ。あれか、あのときなのか。


「おい、デリ子……お前まさか……」

「な、なんか怒ってます?」


 俺が無言で頬を抓ると、みほろも続くようにして、デリ子の頬を捻じり上げた。


「いひゃいいひゃい、なんで、なんでですか?」

「いつもいつも、後出しにしやがって」

「なにも聞かなかったじゃないでふか」

「契約なら先に言えッ!」

「でも、ちょっと安心したでしょう」


 まさにその通りなので余計に腹が立つ。妙に冷めた振る舞いをしていたのも、ようやく合点がいく。別れはまだ先の話だし、デリ子はいつでもやおよろズに会えるからだ。


「母さんは、知ってるのか?」

「いや、知らないと思いまふよ」

「……ここ数日間の晩飯のグレードが上がった理由を知ってなお、黙っていたのか?」


 最後くらいはデリ子の好きな物を食べさせてあげようと、母さんが献立をデリ子に合わせていたのだ。


「いや、やけに私の好物が並ぶなぁとは思いましたけどね、ほら、馬鹿正直に白状したら普通のご飯に戻っちゃいそうでいひゃいいひゃいひゃい! いや、本当にすみませんでした! 私、ちょっと間違えてました!」


 もはや情状酌量の余地はない。俺はデリ子の頬を力いっぱい抓り上げて、恥ずかしさを誤魔化すように吠えた。最初から知っていれば、俺と陽向は他のやおよろズとの別れだけに集中できたし、茂みの奥でみほろに愛を宣言しなくてもよかったのだ。いや、愛の言葉が不要とまでは言わないが、あのタイミングでなくても良かった。現に、陽向に弱味を握られてしまった。


「千晃ひゃん、ほんと、反省してますんで。反省してまふんで!」


 デリ子がびいびいと泣き出したので、俺は頬から手を離す。


「で、いつまで居るんだ」

「今年の十月末までです……」


 ぱんぱんに腫れ上がっだ頬を撫でながら、観念したようにデリ子が言う。あと半年以上も居着くらしい。母さんにどう説明しようかと悩んだが、お気楽主婦は何でも受け入れるだろう。


「だから、人間界の秋の良さを教えて下さいね。去年の秋は、ばたばたして堪能できませんでしたし」


 自分が犯した罪など何も無かったかのように、満面の笑みでデリ子が言い放つ。まあ、妹の願いを叶えてやるのは、兄としては当然である。


「……わかったよ。楽しみにしてろ」


 風が吹き、木々が揺れる。それはまるで、神々が腹を揺らして笑っているようだった。姿こそ見えないが、やおよろズが大笑いしながら眺めているのだろう。俺は「笑ってんじゃねぇ」と毒づいて、空を見上げた。なんてことない、いつもと変わらぬ夜。玉砂利を踏み鳴らす音が、四つ鳴る。俺はその音に耳を傾けながら、デリ子が部屋で流していたシティポップを口ずさんだ。



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