ああ。私達はシフト制なので。今日は全員出勤の日です
「……さて、事の重大さを理解してもらったところで本題に入りましょう。私達が千晃さんに御利益を授けていたのは、ここに呼び寄せるためでした」
デリ子の舌足らずな声が響き渡り、俺の息遣いが空に溶ける。
「節分祭は人が多すぎるので、何もない日に呼び寄せる必要があったのです」
デリ子の説明が続く。やおよろズが俺の運勢を操っていたのは、神への信仰心を高めて吉田神社に参拝させる目的があったらしい。幸運が続けば、俺が神に感謝すると睨んだようだ。
「私とヘルちゃんは、人間の手助けなしでは神社から動けません。だから運気を操って、足を運んでもらう回りくどい方法を取ったのです。それも、私達を認識できるほどに強い信仰心を持ち、他の神の御利益に干渉されない空っぽの人間を狙う必要がありました」
さきほどの話から察するに、他の空っぽは見つからなかったのだろう。だが、俺は信仰心など持ち合わせていない。その点を追及すると、デリ子は「神に縋っている状態なら何でも良いのですよ」と補足した。なるほど。理由はどうあれ縋っていたのは確かだ。
「さて、ここで私達の目的を発表します。ほら、拍手してくださいヘルちゃん」
言われるがまま、ヘルちゃんの拍手が響き渡る。
「やおよろズに言い渡された司令は、京都に逃げ落ちた福の神の捜索です!」
デリ子は天を指差し、なんともいえないポーズを決める。しばらく静止するが、無言の間が恥ずかしくなったのか、咳払いをして説明を続けた。
「……ただ、福の神がどんな姿をしているのかわかりません。私達みたいな新米では、顔すら拝めない存在なので」
「精鋭部隊って言ってたのに、新米なの」
抑揚のないみほろの言葉はデリ子に突き刺さったようで、傍目に見てもわかるほどに動揺している。そうだ。デリ子はさきほど八百万の神々の精鋭部隊と自称していた。まさかこいつ、嘘をついていたのか。俺の視線を察したのか、デリ子は目を白黒させて両手を動かす。しかし妙案は浮かばなかったようで、がっくりと肩を落とした。
「そうですよ。新米でポンコツの寄せ集めですよ! やおよろズっていう名前も、勝手につけたんですよぉ」
びぃびぃと号泣するデリ子。彼女が天界でどのような扱いを受けていたのか知らないが、あまり期待されていないのだろう。
「でも、私達は絶対に、この任務を成功させなければいけません。出世がかかってますから!」
ヘルちゃんがまたもや拍手で盛り上げるが、俺の心は冷めきったままである。
「要するに、お前らが出世するために、神様の問題を解決しろってか?」
俺の言葉から滲み出る呆れを察したのか、デリ子は取り繕うように「京都の町もキケンですからね」と付け加えた。だが、腑に落ちないのはその点だ。福の神の失踪と、京都の町が危機的な状況に陥るというのが結び付かない。みほろも同じ疑問を抱いたようで、デリ子に質問をぶつけている。
「今はまだ説明できません」
しかし、答えは明かされない。デリ子の瞳からは、揺るぎない意志のようなものを感じる。
「……千晃さん、協力してもらえませんか。タダでとは言いません。私達のご利益を、日替わりで授けます」
つまり、あの幸運が恒常的に授けられるのか。出処が判明していれば、得体の知れない恐怖に怯えることはない。幸運であることはありがたいのだ。
「もちろん無期限ではありませんが、問題を解決するまで……いや、来年まではお約束します。効果については、すでに実感しているでしょう。それに千晃さん――」
デリ子は声を潜め、俺に顔を近づける。
「みほろさんと、いい感じになりたいのでは?」
思わず声を漏らしてしまう。
「い、一体何を」
「まあまあ、皆まで言わずともわかりますよ。神ですから」
デリ子はそう言って、憎らしい表情を浮かべやがる。あながち否定できないのが余計に腹が立つ。
「それに、放置すれば京都の町が大変なことになるのは間違いないんです。どうですか。千晃さんにとっても、悪い話ではないでしょう」
確かに悪い話ではない。京都に危機が訪れているのなら、陽向の身までも危険に晒されてしまう。
「福の神を捜索するのは、骨が折れると思います。不幸に怯えるだけの高校生でいたいのなら、オススメはしません。でも、千晃さんは自分の幸せだけでなく――陽向さんの幸せも願ってましたよね? それならば、日常を捨てる価値はあると断言できます」
俺の思考を読み切った言葉だ。試すような表情で微笑むデリ子は、すでに俺の返答すら確信している様子だった。
「さぁ、クソみてぇな未来をブッ壊しましょう」
デリ子が握手を求めてくる。この手を握り返せば、俺の運命が走り出すのは間違いない。だが、京都の災いは陽向の危機に直結する。妹を溺愛する兄として、放置する選択肢はなかった。
「――わかった。できる限りだけど、協力する」
デリ子の手を握り返した瞬間、眩い光に包まれる。その光はすぐに消え、俺の手の甲に謎の刻印を残していった。
「ヨッシャ! 契約成立です。ほら、ヘルちゃんも早く」
デリ子がヘルちゃんを手招きし、俺と握手させる。同じような光に包まれると、手の甲の刻印は二つに増えていた。桃色に薄く輝いており、派手なタトゥーにしか見えない。俺はぞっとして手の甲を強く擦ったが、消える気配がない。
「おい、これはなんだ」
「契約の証です。これがないと、私達は人間界で生活すらできないので必須です」
デリ子がマニュアルを読み上げるように説明する。どうやら人間界に滞在するパスポートのようなものであり、この刻印があれば、やおよろズは他の人からも認識されるらしい。それは構わないのだが、俺の手に刻印されるのが解せない。
「とりあえず消してくれ。目立って仕方ない」
「無理です。契約の証なので。五つ集めると、桜の花びらの形になりますよぉ」
春のパン祭りじゃあるまいし、意欲的に集めようと思えなかった。
「いやぁ、これでひとまず安心です。もう契約しちゃったので、キャンセルはできませんよ!」
デリ子の笑顔に、悪徳業者と同じいやらしさを感じてしまう。そこはかとない恐怖心を覚え、何か見落としていないかと情報を整理する。
空っぽ、御利益、神々、京都、吉田神社。記憶の棚を荒々しくひっくり返すと、忘れていた問題が発覚した。
俺の不幸だ。御利益を授かるはずなのに、なぜ俺は不幸に見舞われているのだ。デリ子を問い詰めてみると、バツが悪そうに視線を外した。
「えっとですね、私達は病気になると、御利益が反転しちゃう性質がありまして。今の千晃さんは、私とヘルちゃん、あとは仮契約状態の神を含めて五人が宿ってるんです。あ、全員やおよろズなんですけどね。それで、今日は三人ほど寝込んでまして」
「……そいつらは何の運気を司ってるんだ」
「総合運、健康運、仕事運です」
「つまり今の俺は」
「クソみてぇな運勢ですね。てへへ」
聞いていた話と違うので、デリ子の頬をつまんで引っ張ってやった。
「いひゃいいひゃいッ!」
「おい、幸運が授けられるんじゃないのか」
「先に言ったら、契約ひてくれなったでひょう」
「意図的に隠してやがったのか」
「作戦勝ちですよ。あ、いひゃいです、やめて。ちぎれる」
不幸から逃れるために神に縋ったのに、これでは本末転倒ではないか。
「病気の三人を、ちあきちから開放できないの?」
「ああ、それも無理ですね。来年の節分祭までは、やおよろズと千晃さんは一蓮托生の関係です。節分祭で拝んだ時点で、合意とみなしてますので」
「じゃあなんだ。協力しようがしまいが、幸福と不幸に一年間振り回されるのは確定していたのか。あの手この手で言い包めやがって、とんだペテン師じゃねえか」
デリ子は手足をジタバタさせながら「でも合格やら恋愛成就をお願いしたじゃないですかぁ」と反論しやがる。こんなポンコツ神だと知っていれば、そもそも縋ってなどいなかった。
「ねえねえ。ところで、どうして御利益が日替わりなの?」
みほろは俺達の争いを気に留めることなく、冷静に質問する。
「ああ。私達はシフト制なので。今日は全員出勤の日です」
予想外の雇用形態が暴露されたが、こちらの知ったことではない。
「じゃあ、病気の神を休ませればいいじゃねえか」
「無理です。お給料が減るって文句を言われちゃいます」
つまり、やおよろズは御利益が反転すると知りつつも、いそいそと出勤する社畜精神を兼ね備えているのか。最悪だ。頼むから寝てくれ。
「待てよ……ということは、福の神とやらも」
「はい。大病を患ったまま行方不明になっています。本来与えるはずの幸福が反転して――不幸をばら撒きます。京都地区を担当していた福の神なので、とてつもない影響力なんですよ」
デリ子は自慢気に語っているが、今はもう福の神ではなく厄災となり得る存在だ。尊敬する気にはなれない。そもそも、顔もわからない存在をどうやって探せというのか。俺が指摘すると、デリ子は「ああ、それは大丈夫です」と言い放つ。
「福の神は、すでに千晃さんと接触してますから」
「はぁ」
そう言われても、神の知り合いなど存在しない。ここ二ヶ月の間に、不自然な邂逅を果たした人物が怪しいのだろう。何気なく、みほろに視線を移してしまう。
「私じゃないよ」
それはそうか。
「でも、なんで福の神がわざわざ接触してくるんだ」
「千晃さんに、引き寄せられるんですよ」
「どういうことだ」
俺が質問すると、再びデリ子の解説が始まる。神様は本来、人の手を借りなければ人間界で行動できない。だが、ある一つの例外が存在するらしい。
逃亡し、神の立場を放棄したときだ。
神でなければ、神のルールを守る必要はない。天界を離れた神は、人々からの信仰心が得られなくなり、人間らしき生物へ成り果てるという。どうやら、人間からの信仰心は神を神たらしめる栄養素のようなものらしい。
「人間、もしくは人間に近い存在であれば、私達の御利益が作用します。福の神と接触するのは、京都の破滅を防ぎたい千晃さんにとっての幸運となります。だから、引き寄せられるのです」
なるほど。逆に言えば、やおよろズが寝込むと問題解決が遠のいてしまうのか。つくづく最悪だ。
「デリ子ちゃん、ちょっといいかな」
「はい、なんでしょう」
「やおよろズってさ、誰に信仰されてるの」
「げふっ」
直球が胸に直撃したようで、デリ子は血を吐く勢いで咳き込んでしまう。確かに、こんなポンコツ共が得られる信仰心なんて限りがあるはずだ。
「今は……節分祭の参拝で食いつないでる状態です。あれは、八百万の神に分配されるものですから」
「やおよろズって、吉田神社に祀られた神なのか」
「いえ、違います。ここは集会所みたいなものです。そ、それより、他のメンバーとも契約してください」
他のメンバー。確か、社殿で寝込んでいると言っていた。
「……明日にしないか?」
「どんだけ嫌なんですか」
嫌に決まっている。単体でも面倒臭いのに、あと三人増えてしまうのだ。考えただけでぞっとする。
「ほらほら、早くしてください。善は急げですよ」
俺の抵抗も虚しく、ぐいぐいと背中を押される。待ち受けているのが善だとは思えないが、今後を見据えると避けられないのだろう。重たい気持ちで社殿の扉を開くと、地獄絵図のような光景が広がっていた。
一度閉める。
「ちょっと。なんで閉めるんですか!」
「勝手にホームレスが住み着いてるわけじゃないよな?」
「何を言ってるんですか」
いや、誰が見ても同じ結論にたどり着くだろう。もう一度扉を開いてみるが、無情にも同じ光景が広がる。便器に顔を突っ込んで嘔吐しているホスト崩れの男と、色とりどりの点滴が腕に繋がっている女の子。こいつらはまだ許容範囲だ。俺が拒否反応を起こしているのは、ブリーフ姿でのたうち回るオッサンの姿。
「アカン、死んでまう……」
関西弁のオッサンはもがき苦しみながら、尻をこちらに向けてくる。ブリーフから伸びた太い脚は、ひじきを散らかしたような縮れ毛で覆い尽くされている。世が世なら、これだけで打首にされてもおかしくはないだろう。
「死ぬ、いやや……死にたくない」
この中で一番症状が重そうなので、こいつが健康運を司っている神に違いない。だがどう見ても、酒とタバコとギャンブルで健康を損なうタイプの容姿である。そもそも、デリ子とヘルちゃんの組み合わせを見るに、やおよろズは子どもで結成された集団であるべきだ。この小汚いオッサンがフレッシュな新米で許される時期は、とっくに過ぎているだろう。
「なあデリ子。この神も、やおよろズなのか」
「はい。よく私とヘルちゃんの三人で行動してますよ」
「そうか。これからは控えろよ」
良くて誘拐、悪くて人身売買の絵面だ。どちらにせよ、国家権力が黙って見過ごすとは思えない。
「自己紹介は後日にして、とりあえず握手だけでも」
デリ子に背中を押され、健康運の神の前に突き出される。泣いても喚いても避けられないのだろう。俺は嫌悪感を押し殺し、健康運の神の手を握る。じっとりと汗ばんでいて、妙に生暖かい。電子レンジから取り出した巨大ナメクジを握っているような感覚に、ぷつぷつと鳥肌が駆け回る。俺の精神は完全に死を迎えた。
その後の記憶は無い。
気がつけば、手の甲に花びらの紋様が浮かび上がっていた。俺は純潔を奪われたのだ。涙が零れた。早く帰って熱いシャワーをたっぷり浴びたい。
「さて、他にも色々説明しなきゃいけないのですが、今日のところはお開きですね」
意気消沈する俺をよそに、デリ子が他人事のように手を叩く。もうそんな時間かと空を見上げると、橙と群青が混ざり合っていた。気温もぐっと下がったようで、肌寒さを覚える。スマートフォンを確認すると、時刻は十九時ちょうどを指していた。
「私達も定時で上がりたいですし、千晃さん達もそろそろ帰らなきゃマズイでしょう」
俺は「そうだな」同意する。詳しい話や残りの説明は明日に回すことにしよう。
「帰るぞ、みほろ」
「うん。お腹すいたね」
やおよろズに別れを告げ、踵を返す。鳥居を潜ると。開放感からか足取りが軽くなった。そのまま鼻歌混じりに吉田神社を抜け、東一条通りに差し掛かる。しかし、足音の数が変わらない。やおよろズの二人が付いてくるのだ。俺はおそるおそる振り返り、問いかける。
「……外に用事でもあるのか?」
「え? 千晃さんの家に向かうんですけど」
当然でしょうと言わんばかりの態度。
「なんですかその間抜けな顔は。さっき契約したじゃないですか。神に衣食住を提供するのは必須です。さあ、私達に美味しいご飯をご馳走してくだいひゃいいひゃいいひゃいッ!」
なんでこいつは、契約内容を後出しにしてくるんだ。衣食住の提供など一切聞いていない。
「今まで通り、社殿で寝泊まりすれば良いだろ」
「あんな狭くてジメジメした場所はイヤですよぉ」
「じゃあ、毎日天界に帰れ」
「交通費が自腹なのでイヤです」
どんなシステムなのか知らんが、新米の神は定期代も出ないらしい。
「とにかく、いきなり寝床を提供するのは無理だ。一人くらいなら押入れに詰め込めるが、二人だとベランダだな」
「そんな殺生な、ベランダなんて外じゃないですか」
「屋根が付いてるだけマシと思え」
「犬小屋のほうが快適ですよぉ」
それなら犬小屋で寝泊まりしろと毒づきたくなるが、文句を言ってもどうせ付いてくるのだろう。不毛な言い争いより、問題解決のために考えを巡らせるほうが有意義だ。俺が唸っていると、肩をちょんちょんと指で叩かれる。
「ヘルちゃん、うちで預かるよ」
みほろの声が、車の走行音に紛れて届く。ヘルちゃんは少し驚いた様子を見せるが、すぐに首をこくこくと縦に振った。どことなく、嬉しそうな横顔に見える。
「みほろ、いいのか?」
「なんとかなると思う。まかせて」
「いやぁ、さすがみほろさん! 話がわかりますねぇ、どこぞの誰かと違って」
桃色の頭が視界の端で揺れる。
「千晃さんは気が利かないですからね。今だってそうですよ。車が多い道を歩いてるんだから、みほろさんを歩道側に寄せたらどうですか」
確かに、みほろの隣をびゅんびゅんと車が通過している。認めたくはないが、デリ子は腐っても恋愛運を司る神様だ。こと恋愛において、言うことに間違いはないのだろう。敗北感を抱きつつも、みほろと位置を交代する。
「ありがと、ちあきち」
デリ子とのやり取りを聞いていたはずなのに、お礼を口にする優しさに感謝が尽きない。御利益など関係なく、徐々に惹かれつつある自分が居た。
「じゃあ私こっちだから」
そんなことを考えていると、いつのまにか東大路通りの交差点に差し掛かっていた。みほろの自宅は俺と逆方向にあるようだ。送ってやるべきかと悩んだが、ヘルちゃんが自分の胸をとんとんと叩いている。私に任せろと言わんばかりの表情だ。俺は手を合わせ、感謝の気持ちを伝える。
「また明日ね、ちあきち」
「おう。今日は本当にありがとうな」
「よきよき。楽しかったから」
みほろがヘルちゃんの手を引きながら微笑む。容姿は似ていないが、なぜだか本物の姉妹のように見えてしまう。みほろの包容力がなせる技だろうか。二人の背中をしばらく見守ってから、俺達は逆方向へ歩き出す。しかし、一歩目を踏み出したところで、靴の裏に柔らかい感触が伝わってきた。犬の糞である。てっきり忘れていたが、今日は恋愛運と金運以外が最悪だった。俺はガードレールで靴を擦りながらデリ子に問う。
「なあ、他の三人の病気っていつ治るんだ」
「さあ。でも、健康運はしばらく悪いと思いますよ」
社殿でのたうち回るオッサンを思い出す。確かにあの苦しみ方は、軽度の風邪ではなさそうだ。とはいえ、早く治してくれないと俺の心身が保たない。いや、待て。あいつらとも契約したということは。
「おい、デリ子。もしかして、他の神も寝泊まりさせなきゃいけないのか?」
「ええ。病気が治れば、そうなりますね」
「あのオッサンもか」
「当然です。契約ですかいひゃいいひゃいいひゃい」
デリ子のむにむにとした頬を伸ばしながら、溜息を吐く。どうにかしてビジネスホテルにでも押し込めないかと思案していると、けたたましいクラクションの音が鳴る。見れば、車のヘッドライトが眼前に迫っていた。続けてブレーキ音が響く。思わず目を瞑るが、身体に衝撃は伝わってこない。恐る恐る瞼を開くと、車体がギリギリの位置で停止していた。どうやら俺は、赤信号を見落としていたようだ。
「どこ見て歩いてんだ、クソガキ共!」
黒塗りの車の窓から顔を出す男に頭を下げながら、もう一度溜息を吐いた。やはり、幸福の総量は誰しもに定められていて、俺の幸運はすでに使い切られているのかもしれない。そう悲観せざるを得ない夜だった。
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