since.5

その夜、それぞれが翌日からの試験に向けて勉強をしていた。

今日一日が充実していた分、明日からの日常に一気に現実感が増して。

皆、想い想いに自信の机に向かい、試験勉強をして朝を迎えた。


それから数日が経ち。

試験が終わったのは、ちょうど七夕だった。


予報どおり空は曇っていて、この分では夜に天の川を見るのはむずかしいかもしれない。


「織り姫と彦星、ちゃんと会えるのかな?」


彩希は教室の窓から空を見上げて、溜息をついた。

そして他の3人も、それぞれが空を見上げて。

静かに祈った。


―――どうか、2人の距離を遠ざけないで………と。


けれど、その日は一日ずっと雲が広がっていて、一向に晴れ間は見えない。


彩希はふと、先日撮った写真を見て、小さく祈った。

短冊に願い事を書いて、皆が同じ事を書いたときのように。

また奇跡が起きてくれますようにと。


俊も、敦也も、圭も、また同じように、その写真を見つめながら、祈りを捧げた。


そして迎えた七夕の夜。

空は相変わらず曇ったままだった。


今年はもう、天の川を見ることは出来ないのかなと、諦めかけていた。


ふと、LINEの着信が入って。

確認すると、グループLINEでの着信だった。


「もしもし?」

『もしもし。ごめん、急に電話して。なんか気持ちがざわついて落ち着かなくてさ。空、まだ曇ってるよね?』

「うん、曇ってる……。やっと2人が会える日なのに………」


俊の言葉に、彩希は自分もずっと気持ちが落ち着かないことを言うと、『そうだよね』と、落ち込んだ声が聞こえた。


『せっかく1年に1度の記念日なのに、コレじゃあ可哀想だよな』

『奇跡でも起きて晴れてくれないかな?』

『奇跡、か………』

『うん?俊、どうかしたか?』

「あ………そっか。ちょうど2年前に私が目を覚ましたのも七夕だったよね?その時のこと、架山君は奇跡だって言ってたから、そのこと?」

『うん………、もう一度起きてくれたら良いなって、思ってはいるけど。そんなに何度も起きたら、奇跡じゃなくなっちゃうよね………』

『う~ん………。確かに、そうかもな』


皆がそう落ち込みながら、空を見上げたときだった。


『『『「あっ!!」』』』


僅かではあるが、雲の切れ間が出来て星空が顔を覗かせていたのだった。

しかもそれは、ちょうど天の川の掛かる位置で、次第にはっきりと夏の大三角形が夜空に浮かんでいた。


「すごい………、晴れたよ!ねぇ、皆見えてる?」

『ああ、見てるよ!』

『マジ、奇跡だ………。すげぇ………!!』

『良かった………』

「これで、2人が迷わずに会えるね!」

『うん!!』


それはまさに奇跡のようで、その一刻だけの晴れ間が現れて、夜空に掛かる天の川がはっきりと見ることが出来たのだった。

そして、その天の川を渡るかのように、一筋の流れ星が走った。


―――幾千の願いを紡いで。

―――今、君に逢いに行く。


その奇跡を見た人たちは、皆、織り姫と彦星が迷わないようにと、皆の祈りが届いたのだと、そう信じて。

あの日、俊の祈りが彩希に届いたときのように。

誰かの想いが、相手に届くようにと。


そして、その奇跡はまた誰かの想いを紡いで、届けられていく。


かけがえのない、大切な誰かに。

この想いが届きますように、と。


今年の七夕の軌跡もまた、俊達の心に強く刻まれていった。


やがて迎える暑い夏。

今年は少しでも変われるならと、終業式には半袖に袖を通す俊と彩希。

その姿に、敦也も圭も、優しく微笑んで。


新たな夏が、今年も始まるのだった―――。


~fin~

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RAY OF LIGHT ~約束の日~ 結城朔夜 @sakuya_yuhki

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