since.3

温泉に浸かって、さっぱりした後、食堂に集まり、食券を選んでいた。

ちょうどこの日は施設のイベントで食券に当たりが出たら、100円引きになるらしく、確認したら彩希に当たりが出たのだった。


「ラッキーだったな」

「うん!今日はついてるかも」


そしてそれぞれ注文した食事を食べ、のんびりしていると、吹き抜けのエントランスから子連れの家族が何やら入り口脇に飾ってあった笹に短冊を飾っていた。

良く見ると、他の客も短冊を飾っているのが見える。

何処で短冊をもらっているのだろうと様子を見ていると、敦也が気付いて一緒に見ると、どうやら売店の方から出て来る客で、短冊を持っている人がいるみたいだ。


「売店で短冊でも配ってるのかな?」

「どうだろう?行ってみる?」

「私、行ってみたい!」

「よし、じゃあ行ってみるか」


そうと決まれば、皆エントランスを抜けて売店に寄ると、中は地元の名産土産がたくさん置かれていて、その一角に色とりどりの短冊と、願い事を書くための台が設置されてあった。


「記念に何か書いていく?」

「いいね。じゃあ早速皆で書こうか」

「願い事か………。何にしようかな?」

「俺はもう、書くこと決めてるよ」

「私も、たぶん決めたかな?」

「あ、僕も決まったかも………」

「あれ?………もしかして、同じ事かな?」

「どうだろう?じゃあ書いたら見せ合いっこする?」

「いいね。じゃあ、書いたら『せーの』で見せ合おうな」


そう言って、皆が短冊に願い事を書き出す。

そして皆で「せーのっ」と声を掛け、自身の書いた短冊を見せ合った。


その内容は………。


【いつまでも皆と仲良くいられますように】


見事に全員が同じ事を書いていた。


「あはは、すごい!皆同じ事書いてる!」

「これぞ、俺らの絆ってやつ?」

「良いこと言うねぇ」

「ふふ、でも本当にすごいよ。まるで奇跡だね!」


皆で笑い合ってると、仲睦まじい彼らを見て、他の客達もホッコリと和んで。

どうせなら記念にと、売店の店員さんに頼み、全員で記念写真を撮ってもらい、その写真を全員でシェアしたのだった。


そしてその短冊を入り口脇の笹に吊るし、見上げると、色とりどりの短冊と共に、折り紙で作られた飾りもゆらゆらと風に揺れていた。


「今年の七夕は、晴れるかな………?」

「どうだろう?天気予報ではくもりって言ってたよな」

「曇ってたら、天の川見られないじゃん。織り姫と彦星が迷子になって会えなさそうそう………」

「迷子って………。でも、出来れば晴れて欲しいよね。年に一度しか会えない2人なんだから。………何か切なくなってくるよ」

「俊ってさ、本当にロマンチストだよね。織り姫と彦星の気持ちを考えるとか、普通しないぞ?」

「え、そう?」

「ううん、そんなことないよ。私だって、織り姫と彦星が会えないのは嫌だし、切なくなるからね」

「優しいおふたりさんだねぇ」

「もう、茶化さないでよ!」

「あはは」


そんなやりとりをして、笑い合っていると、また他の客が短冊を笹に吊るしにきては、同じように笹を見上げて。

小さな子は「願いが叶いますように!」と祈りを込めて、笹に吊るしていた。


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