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「ちょっと曇ってるけど、まあいいか。じゃあいこうぜ」


そして4人は自転車に乗ってあじさい園に向かう。

あじさい園では、今年も見事な紫陽花が見頃を迎えている。

昨日まで雨が降っていたためか、花びらや葉っぱには僅かに濡れている状態のものもあり、それが良い感じにアクセントになって良い写真が撮れそうだ。


4人は各々、スマホで紫陽花の写真を撮り、一番よく撮れたものをフォトコンテスト用に投稿することにした。

自由に園内を散策して、自然の空気を満喫しながら、紫陽花の写真を撮り回っていた。

近隣の市街から来た人もいるらしく、家族連れや年配の方など、いろんな人たちが園内を回っている。

その中にも、自分たちと同じようにスマホで写真を撮って、SNSに投稿する様子も窺えた。


「う~ん………、なんか上手くが撮れないなぁ」

「そう?キレイに撮れてると思うけど」

「まぁ、そうなんだけど………。何か物足りないって言うか、インパクトに欠けるというか………」

「確かに、ありきたりな写真ではありそうだけど。何?優秀賞狙ってるの?」

「いや、別に狙ってるわけじゃないけど。なんとなく?」

「なんとなくかい………」


圭と敦也がそんな会話をしていると、雲間から太陽の光が差してきて。

日差しに照らされた紫陽花に、雫が反射してキラキラと輝いている。


「おっ!絶好のシチュエーションきたかな?」


そう言って、圭は再びスマホを片手に紫陽花の写真を撮り回っていた。


「さて、あの2人はどうしてるのやら………」


敦也は別行動をしている俊と彩希の様子を見に、その場を移動した。

その頃、俊と彩希は一緒に園内を廻り、気に入った風景を撮ったり、休憩所でお互いに撮った写真を見せ合ったりしていた。


「キレイな写真がいっぱい撮れたね」

「うん。紫陽花にも、いろんな種類があるって始めて知ったよ」

「私も、初めてみたものもあって、すごくキレイだった。きて良かったね」

「そうだね。でも、コンテストに出す写真、どれにしようか悩むな………」

「そうむずかしく考えなくても、自分がこれだって思えるので良いんじゃない?私はもう、どれにするか決めてるよ」


彩希が「もう投稿もしたし」と付け加えていうと、俊は「相変わらず即決だね」と苦笑いを浮かべていた。


そんな2人に、近くにいた年配の方が声を掛けてきた。


「学生さんかい?良い写真は取れたかね?」

「はい、キレイな写真がいっぱい撮れました」

「私もたくさん良い写真が撮れて嬉しいよ。今年はフォトコンテストがあるそうだが、おふたりさんも参加するのかい?」

「はい。でも、なかなか決められなくて………ちょっと迷ってます」

「ははは、そうむずかしく考えずとも、自分が一番心の残る風景を撮ったモノであれば、何でもいいんだよ。まぁ、まだ時間はあるし、ゆっくり考えて選びなさい」

「ふふ、だってさ。別に今日中に選べなくても、まだ時間はあるし、ゆっくり選んでみたら?」

「………うん、そうするよ。ありがとうございます」

「それじゃあ、またゆっくりと散歩がてら撮影に励もうかね。おふたりさんも、ごゆっくり………」

「はい、ありがとうございます」


そういって年配の方は再び園内を歩いていった。


「ね、さっきの人も言ってたけど、あまりむずかしく考えなくたって良いんだよ?」

「うん。確かに、ちょっと気負いすぎていたかも。もうちょっと柔軟に考えてみるよ」


そう言ってると、雲間から太陽に光が差しだして、昨日の雨に濡れた花びらや葉っぱが、キラキラと輝き始めた。


「あ、良い感じに光ってる!」


そう言って、彩希は俊に「ほら早く撮りなよ!」と促して。

俊はすぐにスマホのシャッターを押すと、その写真はまるで幻想的のような、キラキラと輝いた風景が撮れたのだった。


「すごいキレイだね!」

「うん………。よし、コレに決めた!」


そう言い、俊はその写真をコンテスト用に投稿し、柔らかい笑みを浮かべる。


「ふふ、よかったね。でも、本当にキレイだったね。キラキラしてて、まるで御伽の国にでも行ったかと思ったくらいだよ」

「それはちょっと大げさじゃない?」

「そうかな?でも、それだけすごくキレイだったよね。まるで、奇跡が起きたみたいに」

「奇跡、か………」

「どうかした?」

「ううん、なんでもない」


そんなやりとりをしていると、敦也の姿が見えて。

その後圭も合流して、そろそろお昼になるのもあって、昼食を何処で摂ろうかと考えていると。


「そういや、近くに温泉施設があったよね。そこで少し休んでいく?」

「オッケー。ちょうど良い感じに汗もかいてるし、温泉に浸かってゆっくりするか」

「何か年寄りみたい………」

「あはは、若年寄りがいるってさ」

「おい、からかってないで行くぞ」


そして再び自転車に乗って、一度駅前に移動し、地元の温泉施設へとやって来たのだった。


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