第14話 工場へ ~ 蘇る記憶①

◆工場へ ~ 蘇る記憶


 パワーショベルの時の記憶が次第に戻ってくるのを感じた。

 花田課長が悲惨な死を迎えた時の記憶だ。

 記憶が戻ってくるのと同時に、あの日の異常な現象が恐ろしく思える。

 私はあの日のことを本のページを捲るように思い出した。

 エレベーターでの出来事・・あれは惨劇の予兆に過ぎなかった。

 あの日・・

 私は誰かと一体になって、花田課長を殺したのだ。

 

 エレベーターの事件の翌日、花田課長は何事も無かったように出社していた。男性社員が「課長、大丈夫ですか」と気遣っている。

「ははっ、あれから早引きして寝たら、元気になったよ」と大笑いをしている。

「診察されたんですよね?」男性社員が訊いた。

「ああ、どこにも異常はなかったよ」課長はそう言って、「あの時、白井くんがいたからねえ。彼女の機転の速さで助かったよ」と更に笑った。

 何の意図で私を持ち上げているのか分からないが、本気でそう思っていないことだけは確かだ。


 それにしても、あの吐瀉物のことはおかしく思わないのだろうか。

 匂い、そして、吐瀉物の中身・・人間のものではなかった。

 誰かが、意図的に課長の体に泥水を流し込み、課長はそれを吐いた、としか考えられない。その後に続いた課長の各部位の変化も常軌を逸している。

 現実のものと考えられなかった。何かの呪いのように思えた。


 呪いは誰かがかけるものだ。

 それは誰か?

 もしかして私なのか?

 いや、私にはそんな力はない。もしこの世界に幽霊や生霊などが本当にいるのだとしたら、そのせいの気もする。

 ただ私はこう思う。

 このセクハラ地獄から抜け出せるのなら、幽霊さんでも生霊でも誰でもいい。

 私をこの異常な世界から助け出して欲しい。そのためなら何でもする。

 家に帰っても会社でもこんなセクハラがあることに耐えられない。


 だが、そんな願いが叶うはずもない。課長と工場に行く日が迫っていた。

 あんな男と出張先でもし泊まりになったら、と思うとゾッとする。

 気持ちが塞いでいると、中谷さんが「白井さん」と言って私の所に寄ってきた。

 何の用事だろう? 

 中谷さんは私の顔を見てニコリと微笑み、「今度の工場の調査は僕も行くことになったよ」と言った。

「えっ、そうなんですか?」

 体が宙に浮かんだ気がした。

 わあっ、中谷さんも一緒なんだ!

 あの日、私は小躍りしそうなほど喜んでいた。中谷さんが一緒なら泊まりもいいかな、と思ったくらいだ。

 後にあんな悲惨なことが起こるとは知らず、私は無邪気に喜んだ。

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