第4話 セクハラとパワーショベルの記憶④

 ああ、そうだった。

 私は、普段は髪を結っているのだけど、その時は解いていたのだ。

「ごめんなさい。仕事中は結うようにしているんですけど・・」と説明した。

 それにしても、驚き過ぎだ。

 中谷さんの知ってる誰かとイメージが重なったのだろうか。

 もしかして、奥さん? 

 いや、それ以前に付き合っていた思い出の人が私に似ていた、とか?

 でもそれはそれで何だか嬉しい。


 中谷さんは、少し落ち着きを取り戻すと、、そのスタイルも中々いいよ」と褒めてくれた。

 私は、「今、伸ばしていますから」と笑顔で応え、

「中谷さんが言ったんですよ」と小さく言った。

「俺が?」 

 中谷さんは「俺が何を言ったんだ」と、きょとんとした。少し可愛い顔だ。

「課の親睦を兼ねたカラオケに、みんなで行った時のことですよ。係長が、『女性は、髪が長い方がいい』って、そう私に言ったんですよ」

「そ、そうだったかな・・」

「カラオケでデュエットを唄ったの、憶えてないですか?」

「ああ、それは憶えてるよ」中谷さんは笑った。「俺は音痴だから恥ずかしかった」

「あの後、私の横に座った時ですよ」

 私がそう言うと、中谷さんは記憶を探るような顔でコーヒーを一口飲み、

「いや、デュエットは憶えているが、髪のことは憶えていない」と言った。

「確かに言ってましたよ・・『君なら、長い髪が似合うよ』って・・」

 忘れたのかな? 

 あれから、私、一生懸命伸ばしたのに・・

「もしかして、他の子にも同じことを言っているんじゃないですかぁ?」

 私がそう言うと、

 中谷さんは、頭を振って、「いや、そんなことはない。会社で言ったとしても、おそらく白井さんだけだよ」と優しい笑顔で言った。

 もうっ、中谷課長代理。そんなことを言うから、私、舞い上がっちゃうんですよ。


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