第3話 セクハラとパワーショベルの記憶③

 誰かの下した天罰だと誰かが言っていたけれど、肝心のセクハラをされまくった被害者である私が現場を見ていない。気が付いたら、警察の事情聴取を受けていた。

 時間はかかるけど、重機の故障が生んだ悲劇として処理されるだろう、と部長が言っていた。


 由美子は、お弁当の揚げ物を頬張りながら、

「あの時、中谷課長代理が、さゆりのこと、すごく庇っていたわよね」と言った。

「中谷さんは、庇ってくれるだけじゃなくて、心配もしてくれているわよ」私は笑顔で返した。 

 あの日、工場に出向いたのは、私と花田課長の他に、その時係長だった中谷さんも同行していた。


 花田課長は私と二人きりで工場見学と洒落込むつもりで浮足立っていたけれど、中谷さんが私の護衛のように付いてきたので、終始不機嫌だった。

 中谷さんがいなければ、私は何をされていたか分かったものではない。

 それに、現場を見ていた中谷さんは「白井さんは悪くないよ」と言ってくれる。

 中谷さんは、本当に優しい人だ。仕事はできるし、格好よく、私の憧れの人だ。入社した時、経理の仕事を丁寧に教えてくれたのをずっと憶えている。

 ああ、ずっとこの人と一緒だったら、いいのになあ、と思ったりもした。

 中谷さんには、毎年バレンタインデーになるとチョコを渡している。「義理チョコではありませんよ」といつも言っているけど。その顔を見れば、本気にはされていないのが分かる。

 思い切って、「食事に連れてってください」と何度か誘ったこともあるけれど、いつも逃げられてばかりだった。

 その時は、奥さんがいたが、今はいない。


 そんな憧れの中谷さんだけど、少々忘れっぽいところがある。

 少し前の話だが、朝の楽しみの一つ・・オフィスコーヒーを中谷さんのデスクに持って行った時のことだ。

 私の髪型を見て突然、何にビックリしたのか、

 中谷さんが目を丸くして驚いたことがある。まるで幽霊にでも出会ったような顔だった。

「ごめんなさいっ、係長・・驚かせちゃいました?」

 中谷さんは、白井さんの顔を見上げ、「白井さん。何か、いつもとイメージが違うな」と言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る