第2話 セクハラとパワーショベルの記憶②

 まるで誰か・・見知らぬ人間の念力か催眠術か何かで、私の心が閉ざされていたような感覚だった。

 私が意図的に花田課長を殺害したような事件だったけれど、パワーショベル自体にも問題があった。不具合があり、修理を依頼していたらしい。

 そのせいで重機には動かす予定がなかったが、私が、「乗りたい」と言い出し、花田課長が良い所を見せようと、「よし、私が乗れるように取り計らってあげるよ」と言ったことになっている。

 その結果、私の運転するパワーショベルは出鱈目な動きを繰り返し、近くにいた花田課長の頭をゴツンと一撃したのだ。


 人間の頭なんて、重機の金属に比べると、もろいものだ。花田課長の頭がどうなったのか、大体は想像がついた。

 現場を目撃した人の証言によれば、倒れた課長の体をパワーショベルのハサミが、まるで鳥が餌でもついばむように開閉を繰り返していたらしい。

 瀕死の重傷を負った課長は病院に担ぎ込まれたが、その時はまだ息をしていて、亡くなったのは数日後のことだ。


 工場長の木村さんはしきりに、「私が悪いんです!」と自分を責めていたし、工員は、「工場長は、ヘルメットを被るように言っていたんです。でも花田課長が、頑として被らなかったんです」と工場長を擁護していた。

 ヘルメットを被っていたら、少なくとも頭蓋骨の損傷は少なかったように思うけれど、違うような気もする。

 何をどうしていても課長は死ぬ運命だった気がする。


 工場長を擁護する者は多かったけれど、被害者の花田課長の味方をする者はいなかった。

「花田課長は、女性社員にいいところ、つまり、自分の権限を見せたくて、女の子を乗せたとしか思えない」と言う者や、

「本社の女性や、支店の女性にまで手をだしていた」という話まで出たりした。「隠し子も何人かいる」とか、とんでもない話も露呈された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る