セクハラ退治の白井さん ~ スピンオフ「三千子」

小原ききょう

第1話 セクハラとパワーショベルの記憶①

「セクハラ退治の白井さん」~「三千子」外伝


◆セクハラとパワーショベルの記憶


 お昼休憩、自分のデスクでお弁当を開くと、

 同僚の由美子が「今日は私もお弁当なの」と言って、椅子を寄せてきた。

 女性社員は他にも多くいるけど、由美子は数少ない私の友人だ。私、白井さゆりは皆から少し距離を置かれている。いや、気味悪がられているのかもしれない。

 でも皆が気味悪がっているわけではない。総務の藤田さんや、経理の小山田さんは普通に接してくれる。

 それにはある理由がある・・


「ねえ、さゆりさあ」由美子が卵焼きを食べながら切り出した。

「なあに?」

 食べかけの卵焼きを飲み込んだ。

「本当にあの時のこと憶えていないの?」由美子はそう訊ねた。

 私は「あの時の事は、思い出せないの」と返した。


「あの事」というのは、「あの事件」のことだ。

 私は警察に事情聴取等をしつこいくらいに受けたが、全く記憶にない。

 けれど、事件の結果は知っている。

 セクハラ男の花田課長の事件だ。あの男は死んだ。

 

 どうして亡くなったのか?

 私が操縦していた重機のパワーショベルのせいだ。

 あの日、私は花田課長に同行して、会社の工業に出向いた。経理の調査をするためだった。

 花田課長はその工場でパワーショベルの先端のハサミに体を潰された。

 その重機の運転席には私が乗っていた。そういうことになっている。

 私が「パワーショベルを運転してみたい」と言っていたそうだが、それもはっきりと憶えていない。

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