5 朝の現場調査
「暑いのにゴメンねー」
倉庫主の
作業着と白衣を混ぜたような服装をしている。
3人と白沢は木陰に入り、軽く自己紹介をした。
「
目元の皺を刻んで、白沢がのんびりと言う。
「ミステリー研究会です!」
部長の
「それに近所の
「あ、そうですね。気付きませんでした」
副部長の
「あと、後輩で書記の
と、赤井は菅黄もフルネームで紹介した。菅黄もペコリと頭を下げる。
貸倉庫の隣。現在は使われていない事務所に、不法投棄をされて困っているという。
夜間の防犯カメラに不審人物が映っていたが、まずは明るい時間に倉庫主同行で現場調査だ。
「不法投棄されてる建物って、これですか?」
「うん。こっちの四角いやつ。元々は事務所だったんだけどね」
正面左に大きな倉庫。右手前に四角いコンクリート製らしい、平屋の建物がある。
倉庫は錆びの目立つ鉄製らしく、大型トラックも入れそうな正面シャッターにも年季が入って見えた。
『
「……この窓ですね」
菅黄が、元事務所の大きな窓を見詰めながら呟いた。
防犯カメラの映像で、屋内を歩く不審人物が見えた窓だ。
「って事は、防犯カメラの場所は」
青枝が振り返って見上げると、敷地内に立てられた照明用の鉄柱にカメラが備え付けられていた。
「あの映像ね。この防犯カメラのやつだよ」
と、白沢も見上げながら言った。
青枝は、防犯カメラと元事務所の窓の写真を撮った。
「いま、ここ開けるから。えーっと、鍵は……」
元事務所の扉の前は雑草が広がっている。白沢は雑草を踏みながら扉の前に立ち、鍵束をジャラジャラさせている。
その後ろから倉庫を眺め、青枝は、
「あの倉庫、元々は何の工場だったんですか」
と、聞いてみた。
「廃品処理関係だよ。現役だったのは祖父の代までだったけど。昔はプレス機とか破砕機とか、けっこう大掛かりな機械が残っててね。子どもの頃、勝手に動かして怒られたもんだよ。機材の処分も大変だったのに、今度は不法投棄なんてねぇ」
「今はアパレル関係の配送をしている、石黒急便に貸してるんですね」
菅黄は、しっかりと活動記録ノートに白沢の話を書き込んでいる。
「倉庫の方だけね。雑草も刈ろうと思いつつ、こっちは使ってないからさ。あぁ、この鍵だ。おまたせー」
重そうな鉄扉が開かれた。
「お邪魔しまーす」
と、赤井は無警戒に事務所の中へ入って行く。
さりげなく菅黄は、青枝の後ろに隠れながら屋内を見た。
事務机やソファー、ファイル棚などが残され、埃をかぶっている。
「倉庫の方は片付けたけど、こっちは放置しちゃっててねー」
と、奥へ進みながら白沢が言う。
「わー、本当にマネキンだぁ」
と、赤井も呑気な声を上げた。
事務机の向こう。6体のマネキンが折り重なるように横たわっている。
ブラウスとスカートという組み合わせが3体。形の違うワンピース姿が3体。
どれも、身長150センチほどの女性型マネキンだ。
「1体ずつ増えて、6体ですかぁ。まだ増えるのかなぁ」
などと言いながら、赤井は平気でマネキンの手足に触っている。
ホラーの苦手な菅黄が背中に貼り付いているが、青枝もマネキンの側に屈み込んでみた。
白沢は事務所内を見回しながら、
「不法投棄について
と、話し、溜め息をついた。
「マネキンの手足って、スポッて外せるイメージですけど」
青枝はマネキンの両足を掴んでみるが、可動域がかなり狭い。トコトコと歩かせるのは難しそうだ。
「腕は外せるのがあったけど、胴と脚は多少動いても外せなくて。可動部が錆びてたりするのかな」
と、白沢が首を傾げる。
「外せれば燃えないゴミに出せるんですよね」
「まあ。ゴミに出せないから不法投棄するんでしょうけど」
赤井はマネキンの頭を掴んで揺すった。
「空っぽかな。中にヤバい薬ってこともなさそう」
「うわ、そういうのは思い付かなかった」
と、白沢が目を見張る。赤井は苦笑いで、
「でも、わざわざ防犯カメラに映り込んでたから。目立ちたくない取引って訳じゃないだろうって、アオちゃんが」
と、話した。
「なるほど。さすがミステリー研究会」
「石膏だか陶器だかわからないけど、古いものっぽいですね」
マネキンの山を眺めながら、菅黄も聞いた。
「古そうだよね。膝裏に穴があるけど、土台を刺すところ? 土台は無いのかな」
「無さそうだよ」
マネキンの山を見下ろし、3人は首を傾げた。
「裏口もあるんですよね」
と、青枝が聞いてみる。
「あるよー。こっち」
事務所の奥に開けっ放しの戸があり、その向こうに給湯スペースがある。
木棚の奥に、裏口扉も見えた。
裏口横にも大きな窓があり、照明はなくても明るい。
「奥側も広いんですね」
「うん。この裏口、鍵が掛かってるんだけどね」
言いながら白沢はドアノブを掴むと、ガチャッと勢いをつけて扉を開けた。
「開いちゃうんですか」
「鍵が馬鹿になっててねぇ。力いっぱいドアノブを回すと開いちゃうんだよ。その内に、鍵も替えとかないといけないんだよねー」
と、呑気なことを言っている。
「替えて下さいよぉ」
「いやぁ、予算がねぇ。あ、そっちに洗面所とトイレと、物置部屋があるよ」
言われて、さっそく赤井が物置部屋の戸を開けに行く。
「次のマネキンが物置部屋で待機してるなんてことは……ないか。段ボール箱がいっぱい」
「倉庫が工場だった頃の書類が入ってるんだよ。それも処分しないとねー」
と、白沢は笑っている。青枝は軽く咳払いし、
「表側の扉から出入りする様子が防犯カメラに映ってないなら、犯人は裏口から出入りしてるって事ですよね」
と、聞いた。
「そうだね。窓とか開けられてたことは無かったよ」
「不法投棄なら、裏口付近に置きそうなもんですけど。スペースもあるし。でも、わざわざ向こう側まで運び込んでるんですよね。どうしてですかね」
青枝に聞かれ、白沢は首を傾げる。
「言われてみれば。この辺りに置いとけば、防犯カメラにも映らなかったのに」
「事務所の方がゴチャゴチャしてて目立たないから?」
と、赤井も首を傾げた。青枝も首を傾げて見せ、
「やっぱり事務所の窓から、防犯カメラに映りたかったのかな。マネキンが歩いてるような姿を見せたところで、不法投棄じゃなくなる訳じゃないけど」
と、話した。
ノートを片手に事務所から顔を出した菅黄が、青枝の袖を掴んだ。
「置いて行かないで下さいよ。まだ、事務所の間取り書いてて」
「いいよ、スガ。間取りとか書かなくて。写真撮ってって、あとは
と、青枝はスマホでカシャカシャと写真を撮った。
赤井もスマホを取り出しながら、
「ゴキいたの? 帰ろう、帰ろう。じゃあ白沢さん。じっくり推理してから、また連絡しますね」
と、言っている。
「了解。楽しみにしてるよ」
閉め切った事務所内の温度も上がっている。
事務所や裏口付近、外回りも簡単に写真を撮ると、3人は白沢に見送られて貸倉庫を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます