第7話「Choice」
二人が
すると取調室に台車を押して瘦せぎすで眼鏡をした白衣の男が入ってきた。
白衣の男が机の上に
何事かとうろたえる二人に、柳原が
「遺伝子検査をしますので、採血していただきます」と告げる。
水衣も舞衣も採血なんて初めての事であったから、舞衣は
水衣に至ってはすっかり
怯える水衣を見て白衣の男が
「大丈夫だって、痛くないから」と軽い感じで言う。
それでも水衣はまだ怯えている。
そもそも舞衣にしてみればそういうことでは無いのだが、という感じだ。
白衣の男は困ったように
「じゃあ...まずは奥の君から」と舞衣の方を見て言った。
回避できる感じの雰囲気ではないので、舞衣も観念する。
白衣の男は肘枕に舞衣の左腕を乗せ、駆血帯を巻く。
そして手袋をして、その白い腕に触れる。
それから消毒剤のアレルギーの
白衣の男が注射器を手に取り、肘の内側に狙いを定める。
注射針が刺されるその時、舞衣は目を閉じていた。
だが、しばらくしても痛みは無い。
「はい、終わったよ」と白衣の男の声がする。
舞衣が恐る恐る目を開けると注射器の中にはしっかり血が入っている。
水衣が
「ほんとに痛くなかった??」と聞いてくる。
それに舞衣は
「うん...」と呟くように答える。
すると白衣の男が
「最近の注射針は痛くないんだよね、技術の進歩ってすごいねー」と言う。
やっぱりなんか軽い男だ、と舞衣は思う。
舞衣が痛くなかったと言っても怯えていた水衣だったが、その右手を舞衣が握ってやるとだんだん落ち着いてくる。
白衣の男は、水衣からも舞衣にやったように採血する。
採血を終え二人が止血している間に、白衣の男は持ってきた機械にいくつかの試薬と舞衣の血液を混ぜたものを入れる。
水衣の血液でも同じようにして機械を操作すると、白衣の男は
「1時間くらいで結果出ますのでね、しばしお待ちいただければ」と言う。
舞衣が時計を見ると、針は16時12分を指していた。
止血を終えて手持ち無沙汰そうにする二人を見て柳原が
「なんか食べる?この中のなら奢るけど」と言って数枚の出前表を差し出す。
それこそ刑事モノよろしくカツ丼でも食べたいが、あいにく舞衣のお腹はスフレを食べたのもあってそんなに空いていない。
水衣の方を見て
「みーちゃんは何か食べる?」と聞くが水衣も首を横に振る。
残念ながら、取調室でカツ丼を食べる場面は再現できそうにない。
舞衣は差し出された出前表を柳原に返すと同時に
「それで、結局私たちはどうなるんですか」と尋ねる。
柳原は表情ひとつ変えず
「検査の結果が出てみないことには何とも」と答えた。
すると舞衣は白衣の男に向かって
「そこの白衣の人は何か知ってるんじゃないですか?」と畳みかける。
白衣の男は柳原の方を見て
「いやぁ...何とも」と答えるだけであった。
正直、机と椅子しか置いていない殺風景なこの部屋で、何もせずに1時間を過ごすのはある種の拷問ではないかとすら思える。
20分ほど経ち、水衣が細い声で
「あ、あの...お、お手洗いに...」と手を挙げる。
すると柳原は取調室の入口の方に待機していた特に背の低い警官に
「お手洗いだって、有栖さん連れてってあげて」と声をかける。
その背の低い警官は
有栖と呼ばれた長い
背が低いのは分かっていたが、並んでみると水衣や舞衣より10
二人とも同年代の女子の中でも割と背は低い方だが、それより10
お手洗いの前に着くと警官は
愛想悪い人だな、なんて思いながら二人はお手洗いの中に入る。
お手洗いを済ませて取調室に戻り、時計を見るとまだ16時44分だ。
椅子に座る時、舞衣は白衣の男に
「あと何分くらいですか?」と尋ねる。
すると白衣の男は
「30分くらいかなー、多分」と答える。
さっきの20分間でもだいぶ時間がたった感触がしたのだが、まだ半分しか過ぎていない、その感覚に舞衣の心は
舞衣はあまりの手持ち
「あのー、クロダ使っていいですか?」と尋ねる。
クロダとは、
通常は目よりやや上の外側の骨に埋め込まれ、外部と通信することで様々な
だが、こんな暇なのに殺風景な部屋で何も出来ないのはいよいよ気が狂ってしまう。
意外にも柳原はあっさりとした口調で
「あ、いいですよ、暇ですもんね」と答える。
使っていいなら最初から言ってくれればいいのに、と舞衣は明らかにお門違いとも思える怒りを抱きながらも
クロダが使えるのなら30分なんてあっという間だ、という舞衣の考え通り、体感時間はさっきの何倍も短かった。
17時18分になり、白衣の男が
「検査、終わりましたよー」と告げると、
二人は反応し、柳原が即座に
「どうだった?」と聞き返す。
それに白衣の男は
「
柳原は二人の方に向き直り、真剣な顔でこう言った。
「君たちには二つの選択肢がある。
対価を得て力を国家の統制下に置くか、それともここで死ぬか。」
水衣と舞衣は驚いた。
それも相手は
内心そう思いながらも、舞衣は柳原に
「"対価"と"統制下に置く"って何ですか?」と尋ねる。
柳原は
「対価っていうのは警保局に入ることで
20万圓、舞衣は耳を疑った。
いつも食べているあんぱんが1個1圓、特注の二輪が6千圓、水衣の持ってる最高級のカメラでも1万圓とちょっと、20万圓といえば田舎に小さな家が建つ金額だ。
脅迫じみた形とはいえ、棚からぼた餅のような形で手に入れたような力がこんな金額になるなら、それは舞衣にとっても願ってもないことだった。
舞衣が「受けます」と言いかけたその時、水衣が口を開いて
「あ、あの...なんでそんな高いんですか?絶対、裏とかありますよね...」と尋ねる。
柳原はそんな水衣の質問に
「
水衣は「やっぱり」とでも言わんばかりの顔になる。
柳原は続けて、
「場合によっては世界と天秤にかけても釣り合わないくらいの価値がある、
もっとも、それを一番欲しているのは
水衣が舞衣の方を見る、その目には若干の不安が映っていた。
舞衣はここで死ぬか、それとも(力を使って)世界中を逃げ回るよりは
「受けます」と柳原に向かって言い、水衣に向かって
「みーちゃんはどうする?」と聞く。
水衣は不安と寂しさを混ぜ合わせたような目をしながら
「まーちゃんが受けるなら私も...」と呟くように言う。
柳原は
「賢明な判断だ、さあ、次の段階に移ろう」
と言って立ち上がり、二人についてくるようにとジェスチャーをした。
警官らの後をついて行き、1階に戻ると千秋が
柳原は立ち上がった千秋に話しかけ、車がどうとかと話している。
警察署を出ると、外はもうすっかり暗くなっている。
街明かりに
一行が来た時と同じように二台に分かれる。
自動車が発車すると、来るときとは逆の道をたどって数寄屋橋交差点を抜け、右手に
左手には
一行は車を警視庁舎と内務省庁舎の間にある駐車場に停め、庁舎の中へと入った。
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