第2話「時速132.5km」
二輪車に仕掛けてあった経路案内が指したのは屋敷から1時間半ほど甲州街道を走った先の山中であった。
かつて自動車を運転するという行為は、危険を伴い
出発から
そんな新宿の街を抜けて西新宿の立体交差を抜ければ、高速道路に入る。
高速道路に入ると二輪はみるみるうちに速度を上げて時速120kmほどとなった。
区部を抜けて自動車の通行量が比較にならないほど少なくなると二輪は更に速度を上げ、時速は130kmを超えた。
ここまで速度が上がると流石の
常日頃から東京都
東京都区部の外に出る機会が年に数度の別荘行きの他に数えるほどしかなく、それも二輪での外出となると舞衣にとっては初めての経験であった。
早い話が、二輪がこんなに速度が出るものだとは舞衣は知らなかったのである。
それは
水衣はその態勢のまま舞衣の方へ体重をかけ頬を若干
「まだ着かないの?」
と舞衣へ問いかけた。
舞衣は背中に
「もうすぐね」
と返す。
水衣はそのまま黙り込み、舞衣の言葉に何も返さなかった。
沈黙が続いたのち、舞衣はふと声が言った"今すぐに"の言葉を思い出して、今すぐって
しばらく経って、二輪車はとある古びた石段の前に停車した。
石段の傍らには*之**主**社と書かれた掠れて読めないボロボロの
だがここが指定されている以上、今更引き下がるわけにはいかない。
舞衣は水衣の手を引いて古びた石段を一段、また一段と登っていった。
舞衣と水衣が石段を登りきると、なんとそこにはボロボロの鳥居に荒れ果てた建物。
まさしく舞衣が夢で見たままの景色が広がっていたのである。
舞衣が
「よく来た、
水衣が繋いでいた舞衣の手に抱きついたと同時に
舞衣は再び尋ねる。
「あなたは誰?ここは一体どこなの?」
声は「まぁ
「待て、そこにいるのは誰だ!?」
声が
舞衣が「えっと、姉の水衣です、ど、どうしてもついてくるというので...お
そう答えると声は
「"
舞衣はホッと胸を
水衣も状況は理解できていないが軽く頭を下げた。
声は「
「まぁそこに座れ」と着席を
しかし辺り一面ぼんやりと暗く、椅子らしきものどころか家具の一つも見当たらない。
舞衣と水衣があたふたしていると声は
「
舞衣は声の主が何を言っているか全く
すると水衣はその場で椅子に座ったかのようになり、「あっ」と小さく声を漏らした。
水衣は舞衣にその事を伝え、舞衣は水衣と同じように椅子に座るそぶりをするとその場で椅子に座ったかのようになることができた。
二人がその場で座ると声は「"縁者"の方が筋は良いようじゃのう」と言い、
「まずは、渡さねばならないものがある」と続けた。
舞衣が「何です?」と
箱は手のひら大の立方体で、
舞衣が片方の箱へ手を伸ばそうとすると声が
「まぁ待て」と制止した。
続けて声は「その二つの箱は一見すると同じようだが、中身は正反対の物じゃ、
舞衣は「益をもたらす物と害をもたらす物って何なんです?」と返す。
声は「それは二人で分け合った
舞衣も水衣も目が段々慣れてきて、暗い中でも物が見えるようになってきた。
どうやら空間は相当に広いものの黒い壁と黒い床、黒い天井で閉じ込められているようだ。
部屋の中心には箱が二つ、恐らくアレを手に取らねばここからは出られないのだろう。
口火を切ったのは水衣であった。
「まーちゃん...、いっせーので取ろう」
そう言って水衣は部屋の中心に歩いていく。
舞衣は何も言い出せず水衣の後をついて行った。
いよいよ箱まで1mという距離で舞衣が
「ま、まだ
水衣は振り向いて舞衣の顔を見ると、
「この箱を取ったら出られる、それだけの話でしょ、別にどちらかが害をもたらす方でもいい、まーちゃんと私は二人で一つなんだから」と返した。
舞衣はそんな水衣の言葉にやっと
「分かった、箱を取ってみーちゃんと一緒にここから出る」と
二人は
「せーのっ!」
その刹那、互いの手は箱に触れ、箱は消えた。
しかし二人の身体には
「分け合ったようじゃな」
舞衣はすかさず「それで、益と害ってどういうことなんです?」と尋ねる。
声は「まぁまぁ...そう
「まずは定命を脱したことを祝わねばならん、マイとミイ」と続けた。
水衣は自分の名前が呼ばれたことに少し
「さっきから言ってるジョウミョウって何なんです?」と尋ねる。
声は「定命とは人間が生れ落ちる以前より定められた一周の
「益と害は...」舞衣が話に入ってくる。
声は「そうであったそうであった、まず益とは...地を繋ぎ人間の歩む
舞衣が「つまり...」と言い終えぬ間に声は
「まぁやってみた方が早かろう、マイは益、ミイが害のようだからな」と続けた。
その刹那、暗い空間に家具が揃えられて
そののちに声は
「マイ、想像せよ、自分がその
「ミイ、目の前の...例えばその豚を消すことを想像せよ、そして
と言った。
舞衣は自分の5mほど前に現れた
そして舞衣は自分の周りの地面に右足で丸を描き、水衣は指を弾いた。
その
声は上ずりながら「上出来じゃ」と言い、暗い黒の空間を解いた。
舞衣と水衣は深夜の廃神社に戻って来、声は「これで
舞衣と水衣は夢でも見ていたかのような気になっていた。
特に水衣はこの状況に適応していたように見えたが脳内では道理と不合理が
舞衣はどちらかといえば物事を割り切れる性格であったので、頭を抱えていた水衣に肩を貸して白い息を吐きながら古びた石段を降りて行った。
二輪の後ろに水衣を乗せ、舞衣はアクセルをひねって
午前4時13分、冬の
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