第4話 初配信
「みなさんどうも初めまして!新人ダンジョン配信者のユーリです。今回は東京駅から徒歩5分の場所にある超有名ダンジョン『ドグマ』に挑んでいこうと思います!」
あの後初配信のスケジュールを組んだ俺とナギは、その数日後に東京のダンジョンまで足を運んでいた。今ダンジョンのゲート前で配信を始めたところである。
そのダンジョンの名前はドグマ。
日本で最も知名度のあるダンジョンであると同時に、最も規模の大きいダンジョンでもある。
普通のダンジョンは大体5層で構成されているのだが、なんとドグマは観測された範囲だけでも70層はあると言われている。
ここまで大きなダンジョンは前世でも滅多に見かけなかった。
ダンジョンの難易度ランクは脅威のXランク。浅い層からでもかなりの強敵が登場するし、深いところまでいくほど敵たちは更に強力になっていく。
「こんなところ、探索者になって最初に来る場所じゃないです…!やっぱり帰りましょうよ!」
「帰ってたまるかよ…びびってるこの子はパートナーのナギです。知ってる人は多分知ってるんじゃないかな?」
配信タイトルは、『新人探索者が初手ドグマに行ってみた』だ。
こういった異質な行為をする探索者は過去に何人かいたそうだが、その大半はロストしてダンジョンの栄養になってしまった。
現在の同接は約1000人ほど。
有名な探索者にトゥウィートされたのとタイトルのインパクトがあるからか、初配信にしてはそれなりの人数に見られている。
コメントも、
『ナギちゃん死なないでなんでそんな男と組んだの』
『ロスト確定で草』
『朝霧さんの動画から来ました!』
などなど様々なものが寄せられている。ナギのことを心配するものや、俺たちのロストを心待ちにしているもの、朝霧メアの動画で俺たちを見つけてここに来たもの。
同接1000人は伊達ではなく、コメントが絶え間なく流れてくる。
『ダンジョン早く入れよ』
『ドグマ一層攻略とか久しぶりに見るかも』
ダンジョン攻略を心待ちにしている視聴者もいるので、前振りはここまでとして、さっそくダンジョンに入ることにする。
「それじゃそろそろ行きますか。ゲート!」
「…ゲート」
そう唱えると、ゲートから不思議な光が溢れて、俺たちの視界が一瞬にして変わった。
「何度か配信で見た景色だな」
日本最大級のダンジョン、ドグマの第一層は広大な森林エリアだ。ここはその安置だが、探索者の配信を漁っていると嫌でも見る場所である。
『ジーク・フォレスト』
略してジーフォと呼ばれるそのエリアには、この世界の生物に酷似した外観を持つモンスターが大量にいる。
「や、やっぱり帰りましょうよ…今ならまだ安置ですから」
ダンジョンに入ってすぐの場所には結界が張られておりモンスターが入ってこられないエリアがある。
そのため、探索に必要な道具を売る店屋だったり、ダンジョンを連日攻略に費やす人のための宿だったりと探索者支援用の施設がいくつもある。
ダンジョンから出るための転移ゲートもここにあるため、今から戻ろうと思えば簡単に戻れる。
だが、俺たちはこのダンジョンを出入りするために配信をしているわけではないのだ。
「金が必要だからな。手っ取り早く稼ぐにはドグマが一番効率がいい」
「ですが…」
「俺の腕を信じて着いてきたのはお前だろ?友人の剣だって託してくれたんだし」
「それはそうですけど…」
「お前に危険が及べば最優先で助ける。だから心配するな」
その一部始終を見ていた視聴者のコメントたちは、
『リア充○ね』
『ロスト期待してますね』
などのような辛辣なものばかりであった。
だが、ナギはその正反対の反応で、まだ不安げな表情をしつつも、確かに頷いてくれたのだった。
「そんじゃ行きますかね。冒険に出発だ!」
※ ※ ※
俺たちは適当な雑談をしつつ、ジー・フォレストの中へずいずい進んでいった。
先ほどからモンスターは度々見かけるが、実力差を感じたからかこちらを襲ってこようとはしなかった。
宝箱でもないかと常に視線を配らせているが、中々どうして見つからない。
ダンジョン内の宝箱は数分おきにランダムで現れるので見つけられるかは完全に運なので仕方ないのだが、そろそろ撮れ高の1つくらいは欲しい。
「この森で一番危険なモンスターはなんだったっけな。みんなは知ってるか?」
『ジーク・ベア』
『ジベア』
『ジークベアーかな』
(まあ、そうなるよな)
「そんなのに会ったら一目散に逃げましょうね?」
「撮れ高欲しいからな…」
「ヴオオオオオオオオオ!!!!!!」
「「!?」」
話の最中に、唐突に雄叫びが轟いた。
鼓膜が破裂しそうなその音に思わず耳を塞ぐが、森の脇からこちらへと向かってくる大きすぎる気配を感じたので、ナギを隠すようにそいつと対峙した。
『ジーク・ベア来たww』
『ロストまで早すぎじゃね?』
日本の熊よりも圧倒的に多い筋肉量。体毛は黄金色で、奴の全身からは圧倒的なプレッシャーを感じる。
「撮れ高のお出ましだな」
望んでいた撮れ高があちらからやってきた。これ以上のチャンスはないと踏み、ナギを背に置き、譲り受けた剣の鞘を抜いた。
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