第3話 無意識のバズ、そして勧誘

「なんだこの騒がしさは…?」


 おっさんとナギの和解を見届けて数分後、ギルドに手続きへやってきた俺は、周りの人間が俺を見ながらやけに騒々しくしているのに気づいた。


「どうやら、さっきの中堅探索者たちを圧倒するシーンがネットに投稿されてプチバズりしたみたいですよ?ほら」


 ナギはそう言ってスマホを見せてきた。


 人気SNSことトゥウィッターに投稿されたその動画は、投稿開始から約数分にもかかわらず1000いいね超えとそれなりにバズっていた。


「投稿したのは…朝霧メア?」


「あたしのこと呼んだ~?」


 投稿者の名前を読み上げたその瞬間、後ろから声をかけられた。


 振り返ると、そこには非常に配信映えしそうな赤髪に地雷系ファッションを着込んだ少女が立っていた。


 容姿は非常に幼いが、腰にはその容姿に似つかわしくない長剣を下げており、漂っている雰囲気はベテラン探索者のそれだった。


 強いな。直感でそう思えるほど彼女からのオーラはすごかった。


「人の戦闘を無断転載とはいい度胸だな?」


「あたしSクラス探索者だからさ、新探索者の育成を任されてるの。必要とあらば転載も許可されてるから、一応合法ではあるよ?」


「はあ…そんなところだと思ったよ」


「朝霧…メア…!」


 ナギが口に出したその名前は、配信者を目指す過程で何度も聞いてきたものだった。


 朝霧メア。


 彼女はダンジョン内の秘境探索を主に活動する超人気ダンジョン配信者。


 容姿と実力と配信内容。そのどれもが高いレベルでまとまっており、ダンジョン配信に興味のない人たちにすら名前を知られているほどの有名人だ。


「あなた実力あるみたいだし、探索者志望なら早めにバズっといた方が楽でしょ?だからバズらせてあげたんだよ」


「それはそうだが、有名配信者におんぶに抱っこというのは俺の美学に反するからな。お前の手ほどきは受けたくない」


「…人がせっかく知名度アップを手伝ってあげてるのに、失礼な人だね」


 不機嫌そうに彼女は言うが、見ず知らずの他人の好意を受け取っているといずれ痛い目を見ることになる。


 朝霧メア自身に悪意がないのは知っているので、彼女の好意を無下にするのは心が痛いが、これも今後の為だ。こらえるしかない。


「それじゃ、俺は手続きがあるんでな。俺の知名度があんたと同じくらいになったらコラボしてくれよな。おいナギ、行くぞ。お前も死亡者報告とかあるんだろ?」


「え?あ、はい…」


 それだけ言って朝霧メアの肩を軽く叩くと、なぜか放心状態のナギを引っ張って振り返ることなくギルドの受付へと向かった。


「…ふふ、面白そうな人」


 背後で朝霧メアに好奇の目で見られていることに気づかずに。


 ※ ※ ※


 受付に探索者デビューの申し込みをして待っている時、付き添ってくれたナギに少し気になったことを尋ねた。


「そういえばさっき、やけに黙り込んでいたがどうかしたのか?」


「ああ…あれはその、有名人のオーラに当てられて…」


 そう言いながらも、ナギはどこか落ち着かない様子だ。まあ、ここまでの行動を見てなんとなく予想できてきた。


「お前、もしかしなくても朝霧メアのファンだろ?」


「どうして分かったんですか」


 ナギは目を丸くしていた。どうやら彼女は自分が分かりやすいリアクションをする人間という自覚がないようだった。


「ただの勘だよ。それより、ちょっと頼み事があるんだけどいいか?」


「え?なんですかいきなり…」


 急に改まった態度を見せる俺に困惑しつつも、彼女は聞く耳を持ってくれた。この分なら俺の頼みも聞いてくれるだろう。


「お前、パートナーを失ったばかりだろ?今後組む相手がいないなら俺と組まないか?」


「え?」


「ダンジョン配信はソロでやるよりも数人でガヤガヤしてる方が見るやつも増えるからな。それにお前かわいいし、配信映えしそうだから」


 彼女の顔をサムネイルにするだけで一定の視聴者はつきそうだ。それくらい、ナギは優れた容姿をしているのだ。


「かわっ…!?そ、そんな調子のいいこと言って何のつもりですか!?」


 反応を見る限りその自覚も薄い。これは過去に男性経験とか無かったタイプなんだろうなと思いつつ、そのままの勢いで勧誘を続ける。


「事実を言ったまでだ。それに、俺と組んでいればいつか朝霧メアとコラボできるぞ?」


「何を根拠にそんなことを…」


「根拠はない。だが、諦めなければいつか叶う。だから俺と組めナギ。後悔はさせない」


 ナギは非常に困惑した様子だった。出会ったばかりの男に背中を預けることなど普通なら嫌なことだし、当然の反応だろう。


「…分かりました。そこまで言うなら組んであげますよ。後悔させたら承知しませんからね?」


「ふん、いい顔するようになったな」


 その決断までの数秒間。


 ナギが何を考えていたかは分からないが、俺の提案を飲んだ彼女は、今日見てきた中で一番眩しい笑顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る