998話 視野狭窄+五里霧中=暗中模索?


 部長室に入るとそこには部長の長谷川が紅茶を用意して待っていた。

「話を聞かせて貰うわ」

「逃がす気はないからな?」

「…はい」

 2人に挟まれた巽は長いため息のあと、現状について説明を始めた。


「───成る程。だから岩崎は心の闇と称したのか」

 一通り話を聞き藤岡はため息を吐く。

「どういう事?」

「恐らく此奴は自覚をしていない…いや、分かってはいるがそれ以上に根深いことを理解していない」

「?何を?」

「そう育てられてきたせいもあるだろうが、自身を消耗品として考え、常に自身を低く見ている。自己肯定感というよりも人権消失レベルだ。

 ただ任務のために動く機械のような存在…そして神への贄として定められていたために性的な虐待等の目にあっていなかっただけだろう」

「「………」」

「そして、その神が処罰され、贄に対して目印としての神気付与が無くなったことでそれを基として回していた力の回路が回らなくなった。

 その後此奴に出来る事は今以上に働き捨てられないようにアピールすること…と思っている状態だな」

 藤岡が言い終わると暫く重い空気と沈黙が続いた。

「…えっと、巽家って、今神国に?」

「一部は行ってたはずだが」

「…半数以上は国内に残っています」

 俯きボソリと呟く。

「私を姫様に差し出し、機嫌を取った上で入国を止められている残りの一族の許可を取れと言われています。その、初物の方が良いだろうと…何もされてはいません」

「「あー…旧家あるあるかぁ」」

 長谷川と藤岡が同時にため息交じりにぼやいた。

「今の時代には適応できていない…と言いたいところですが、残念ながらそういった業界では未だに普通なんですよね…」

「まあ、千年組には普通らしいが、千五百年組辺りは女系優位の所が多いらしいんだがな」

「えっ?」

「男は雑念が多すぎて神への祈りが通りにくいそうだ」

「それ、今言う?」

「私も最近聞いたんでな。その言い伝えが廃れたのはおよそ千百年前らしい」

「「………」」

「んっ?どうした?」

「課長の交友関係が…」

「いや岩崎の交友関係だからな!?」

「普通その系統からでも回ってこないわよ…」

「何故私が責められる!?ともかくだ。巽、お前は諦めて自身のしがらみを切り捨てろ。このままだと岩崎の最悪の弱点になるぞ?それに今のお前さんは不意打ちで核喰らっても問題無い自動防御があるだろうが」

「あっ…」

「1人で抱え込んでいると良い考えも浮かばないのよ?」

「というよりも、視野狭窄が過ぎてポンコツ化しているだけなんだが…お前さん、よーーっく思い出せ。自身の家の神と、特殊スキルで召喚する神は一致しているか?」

「えっ?……東岳大帝招聘状…」

 巽は息を呑んだ。

「本来は陰陽道の家系だろうが。関東に移ったときに神道に鞍替えしたわけでもないだろうに。とっとと家に帰って身を清め保護神に祈りを捧げ回復に努めろ。

 あと、日付はとうの昔に変わっているからな…今日は休め」

「休みと言うよりも修行に入るという事で出張扱いにしておくわ」

「ありがとう、ございます…」

 藤岡と長谷川の言葉に巽は深々と頭を下げた。


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