982話 制作側の想定外と、使用側の過度な期待


 ゲートを潜り、その地へ聖女が降り立った。

 室内はいまだ微かながらも火が室内を照らしている。

 鞘から剣を抜き放つとジャンヌは息を吐いた。

「……確かに、箱庭に住んでいる私でもギリギリですね。大聖堂に籠もっていないメンバーだと、無理じゃないですか、これ」

 ジャンヌはその剣に意識を集中し、力を一気に解放させる。

「神罰、執行です!」

 そう叫ぶと共にあろうことか斬り裂くのではなく、その剣を地面に刺し貫いた。


 轟音。

 悲鳴という範疇を超えた音の暴力。

 瞬時にジャンヌは部屋を離脱していた。

 そして突き刺さった剣は光を放ち、聖女の宣言を守る。

 神罰、執行。

 罪穢れに満たされたこの部屋に対する神罰を執行する。

 シャン、シャン、シャン

 何かが鳴り、壁が斬り裂かれる。

 そしてそれに合わせるように悲鳴が上がり部屋全体がうねる。

 シャン、シャン、シャン

 再び何かが鳴り、天井が斬り裂かれる。

 落ちてきたのは鉱物や建造物ではなく、表面の焼けただれた分厚い肉塊だった。

 それらは肉塊にもかかわらず未だに生きているかのように蠢いていた。

 しかし、剣は一切の邪悪を認めず、

 シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン

 音が鳴り、周辺の全てを斬り裂き、そして消えかけていた火が再び息を吹き返す。

 焔は盛りを増して全てを焼き払い、剣は音と共に万物の邪悪を斬り裂いていく。

 異界は、ものの数分で存在を抹消され、剣はその根源たる存在に刃を向けた。



「…ゲートが、消えた?」

 藤岡は呆然とした様子で消滅したゲートのあった所を見つめる。

「どうやらあの剣が倒したようですね!」

 何故かドヤ顔でそういうジャンヌ。

「そう言えば、剣は…?」

「えっ?使い潰してきても良いですよと言われたので刺して帰ってきたのですが?」

「えっ!?」

 聞き捨てならない台詞に慌ててゲートのあった所へ向かおうとする。

「もうありませんよ?それにあの部屋を崩したあとは主の名の下に敵を斬り裂くはずですからあれでいいんですよ」

 藤岡を宥めながらジャンヌがそう説明する。

「…どういう事、ですか?」

「あの剣に対して私はすることはトリガーを引くこと、つまりは敵を倒せと指し示すことだけだったのです。ですから私はあの剣を床に突き刺し、神罰執行を宣言したのです」

「神罰、執行」

「はい。ですのであの空間は神罰によって滅ぼされ、それの大元に対してあの剣は消滅までの間襲いかかっていることでしょう」

 ニコニコ顔のジャンヌに藤岡は顔を引きつらせながら「そうですか…」としか返すことが出来なかった。



「お帰りなさい。早かったですね」

「はい!万が一も何もなくあの空間は消滅しました!」

 えっ?

 全員の動きが止まった。

「……確かに。ゲートが閉じ、いえ、消滅しているようですね」

 玉藻さんが僕に膝枕されながら真剣な表情で呟いた。

「はい!今頃あの剣は大元を切り刻んでいると思います!」

「えっ?」

 僕、そんな機能を付けた覚えないんだけど…

 神聖水晶を剣の形にして、刀身部分を神銀でコーティングしただけのもので本当に対邪、対魔物用の儀礼剣のはずなんですけどねぇ!?

 特に問題も無くゲートが閉じられたというのであれば無駄なことはいわなくて良いかな…


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