977話 姉(妖怪)動く


 そこは戦場だった。

 恐らく安全だった場所なんだろう。

 しかし、ここは既に暴走を起こしている。

 キルゾーンであり、デスゾーンだった。

 私の召喚した衛士や武士達は青黒い異形に簡単に蹴散らされる。

 ダニエルさんが放つ弾丸は全くと言って良いほど通じてはいない。

 香也の術やお札は多少ダメージを与えているレベル。

 ミシェルさんと護衛士官さん、そしての攻撃だけがまともなダメージを与えていた。


「あ、境界が閉じられた」

 僕の呟きに全員が一斉にこちらを見た。

 神隠しの家の向かいにある空き家を所有している不動産会社さんからちょこっと借りたので、全員そこに移動して寛いでいるんだけど…みんな寛ぎすぎじゃないかな?

 ソファーに寝そべってスマホ弄っている佑那。

 和菓子と日本酒を楽しんでいる酒呑童子さんと、その横で和菓子を食べているマヤさん。

 課長は刀の手入れをしているし…

「で、閉じられた対策は?」

 課長が道具を片付けながら確認してくる辺り、すぐにでも突入する気だと思う。

「護衛士官がキーとなっていますし、紅葉さんに万が一は使うようにとアイテムを渡していますので問題無いです。あと」

「何だ?」

「玉藻お姉さんに連絡を入れているので、そろそろが変わると思いますので…もう暫くお待ちください」

「「「「えっ?」」」」

 全員が「マジかコイツ」って顔でこっち見てる。

 いや、佑那までそう言う目で見るのはおかしいとお兄ちゃんは思うんだけどなぁ!?




 事前に資料を読み込んで気付いたことが幾つかあった。

 そして仙人達が妖怪達の管理している境界を把握していないことに違和感を覚え、最も詳しそうな妖怪に聞くことにした訳だけど…

「ええ。あの川の向こうにあるお宅ですね?確かに地脈を使い色々と策を弄しているようですが…出力的にあの程度であれば縫い付けることと数年間内部干渉をし防波堤を作るのが限界かと」

 モフモフ尻尾で僕をギュウギュウ抱きしめながら玉藻さんはそんな怖いことを言っていた。

「そもそも大気、地気、水気、人気そしてその地にある遺構…建造物や文化物、神体などを使って初めて風水です。

 地気だけだと淀み溜まり、大気だけだと霧散し、極まり陰火となる。水は流れ、留め、淀むため循環が必要で人の気で全てを汚染することもあります。そして建物はそれらの気の流れを整え、逸らし、時には溜め、時には浄化する素晴らしいSystemなのです」

 そう言って僕の頬をスリスリして幸せそうに笑う。

「あちらでは大気は考慮されておらず、人死にが出ていますので人気も駄目。更に地気の層を弄るために水気を駆使してあるのに遺構が手入れされて居らず…」

 言葉を留めて僕を抱きしめる。

 多分、佑那もあまり帰ってこないから人肌に餓えているんだろうなぁ…

「お任せ下さいな。義姉あねとしてあの家の気の流れを変え、中身を全部吐き出させます。一度彼奴等仙人共めには痛手を受けましたので…ええ、怨返し序でに仙術の一つの極地を…お見せ致しましょう」

「玉藻お姉さんが、凄く頼りになる…!」

「…旦那様が私を手酷く振った場合、フィフスライフとして貴方の姉兼使い魔というのも…良いかも知れませんね」

 顔を真っ赤にしながらも真剣にそんな事を言っていた。


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