961話 家庭の事情ではなく、家系の事情
出勤すると課長が無言でカウンターの方を見るよう指示してきた。
「うわぁ…」
なにあれ。全員が、手でお札を数えてるぅ…
「鑑定使える人居ませんでしたっけ?」
「んっ?どういう事だ?」
「いや、全部箱に入れて鑑定したら詳細でるじゃないですか。枚数と合計金額」
「………ちょっと待て。管理課の折谷はいないか?すぐ運営課まで来てくれ」
課長が鑑定できる人を呼んで席を立つ。
そして運営課…カウンターの方へと行き、やってきた管理課の折谷さんと何やら話をして…運営課の人全員が膝から崩れ落ちたっ!?
「…岩崎さん、ありがとう…本当にありがとう!」
「巫女様俺らの苦労が…済まねぇ、本当に済まねぇ!」
いや何の事?
「夜中に紙幣カウンターが壊れたんだよ」
それは大変だ…えっ?まさか…
いままでひたすら数えては箱詰めしての繰り返しだった。
「あの、もしかして…」
奥の壁側に無造作に詰まれている6つのダンボールって…
今折谷さんが何か書き込んでいるアレって…
「6箱中4箱はお金だ。そして2箱はマギトロンや魔石だ」
いくら底上げされているからって魔石普通に持ってきてるの!?
「遅番の連中が応援として紙幣カウントのダブルチェックをひたすらやっていたぞ。一晩中」
一晩中…ひたすらお金を数えていたと…
「深夜にもやってくる探索者。次々と放り込まれる金銭やマギトロン…かなり疲弊していたな」
それはそうでしょうよ。ダンボール4箱分のお金をひたすら数える作業って…
「金額については考えないことにした。どうせ10億は超えているからな。寄附するものだから考えるだけ無駄だ」
ため息をつきながらそういう課長。
「あっ、そう言えば巽さんは…休みですか?」
「ああ今日は休みだ。1日トレーニングすると言っていたが…」
「うちのメイドさん達とブッキングしてないかなぁ…大丈夫かな…」
「メイド?昨日の配信にいた執事に関係しているのか?」
「廣瀬お姉さんが特殊なロボットを魔改造してメイドロボット…ヒューマンフォームロボットを複数体用意したんですよ」
「───うん。この時点で色々嫌な予感しかしないんだが?」
流石課長。おわかりになりますか。
「昨日一日である程度の常識を学習したらしいので今日は護衛についての訓練という事で…訓練をするらしいんですよ」
「……うん。絶対巻き込まれていると思うぞ」
デスヨネー
「巽さんのスキルアップになるのなら良いんですが…」
「その前に心が折れそうなんだが?」
「折れますかね?守れなかったことに対する後悔をずっと引き摺っているのに」
「…わざとだな?」
「いや本当に偶然ですよ?ただ…巽さんは自身の心の闇と向き合って貰わないと先に進めないんじゃないかなぁと。
行動の端々に他者の代わりに死のうとか自身を奴隷のような身分として動いている節があるので」
課長が少し驚いた顔で僕を見ている。
「分かっていたのか?」
「分かっていたというか、このままだと本当にうちのメイドさん達以下に成り下がってしまいます。
巽さんが僕に執着しているうちに色々矯正しないととは思っていましたよ」
自身を道具と認識して行動するような巽さんだと今後神様方含め色々問題が生じるわけで…そこから一歩踏み出そうとしながらも踏み出せていない巽さん。
もし今メイドさん達とブッキングしていたら…心が折れるか奮起するか、どちらなのかは僕も分からない。
今抱えている巽さんの問題は、巽さんが解決しなければならないと思うから。
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