929話 巫女にゃんこの加護よあれ


 歌い終わった後、暫くの間ステージ側に向かって全員が拝んでいた。

 …神様方は拝まなくても良いと心から思うんだ。

「えっとぉ…そのまま最後の巫女にゃんこ奉納歌に行っても良いですか?」

 会場中から「あっ…」という今気付いた感の声が聞こえたんだけど?

 もう帰って良いかな?



 ステージがあの神社へと変わる。

 最初の巫女にゃんこ奉納歌はマイヤとリムネーが歌い、踊る。

 前後変わるけど、それが過去の話だから。


 母から子へ受け継がれる信仰と祈り。

 想いは伝承されて次代へ。

 しかし…

 照明が暗転して二人が下がり僕だけが境内に立つ。

 誰も居ない境内でただ一人舞いを奉納する。


 神様が寂しくないように僕の想いを届けたくて


 みんなみんな居なくなって、僕だけ一人ここに居る。

 神様がいるからここは在る。

 僕は生きる。精一杯。

 だってそれが母様の願いだから。

 寂しいけど、僕が居なくなったら神様はもっと寂しいかも知れないから。


 会いたい気持ち会えない事実をひた隠し、僕は舞いを続けます。


 春は桜の花びらを、夏はツユクサ、秋はススキ、冬はサザンカ。

 だけど、僕の力は無くて、寒さで泣いてしまいます。

 神様、貴方様に奉納できるモノはこの消えそうな僕だけに───




 SIDE:?


 全会場が、視聴者が悲痛な叫びと救いを願う祈りを籠める。

 しかし倒れた巫女にゃんこは動かず眠りにつき、照明が───


 そよそよと秋風が紅葉を揺らす。

 そこは古めかしい社殿の前。

 紅葉が地面を覆っているその上に一人の幼子が横たわっていた。

 寝息を立てている。

 その姿は先程まで見ていた巫女にゃんこだった。

 ザッッ、ザッッ、ジャッッ…

 何かの足音が聞こえた。

 カメラは固定されているのかその足音の主が見えないが、やがて巫女にゃんこに近付き、その前に立つ。

 巫女服姿の…それはとても見覚えのある後ろ姿だった。

『あらあら…』

 彼女はそう言って巫女にゃんこをソッと抱き上げる。

 抱き上げられたことで巫女にゃんこは眠りから覚め、抱き上げた女性を見て目を見開いた。

『母たま!』

『はい、母様ですよ…』

『うっく…があ゛だま゛~~~っ!!』

『泣き虫は変わらないのね…泣かずに頑張ってたのに…』

 数分間泣いたあと、スンスンと鼻を鳴らしながら女性…母巫女にゃんこを見る。

『………母たま、ボク、神様に、喜んでもらえたかな?』

『ええ。その想いを神様が受け止めてここへ運んでくれたのよ?これからも神様にお祈りしながら一緒に『にぃたま!』ああ、あらあら…来ちゃったのね』

 ちび巫女にゃんこがもう女性と共にやってきた。

『えっ?』

「なんとか、間に合ったようだの」

『龍田比売様、私のような者の願いを聞き届けて下さり「よいよい。其方等の綿々と継がれてきた舞と想いに対するお返しじゃ」…』

 母巫女にゃんこは巫女にゃんこを下ろす。

「よう頑張ったな。其方のこれまでの奉納、確と受け取った。だが最後の奉納はいかんぞ?神に対して自身を捧げるというのは魂をも縛る行為になる…アレは無しじゃ」

『神たま、ありがとうございます』

 巫女にゃんこがぺこりとお辞儀をする。

「礼代わりに舞をしておくれ」

 龍田比売様の言葉に三人が元気よく返事をし、三人が歌い、踊る。

 曲も何も無い中で歌い、踊る。

 紅葉の床を滑り歩き、大地の音を奏で。

 巫女装束をはためかせ、風の音として。

 親子で舞を奏でましょう。

 永久とわに、永久とわに、永久とこしえに───


 ゆっくりと映像は空へと向き、やがて暗くなった。


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