921話 虎頭、現る。
「騙されるな!」
その声は場内に響き渡る程の大音声だった。
「っ!?誰だ!」
課長が瞬時に武装し声の方を向く。
と、3階席に腰にサーベルを差した虎頭の人が腕を組んで立っていた。
「思い出せ!その男は善人かも知れないが優柔不断で流されやすく、何よりもソイツは既に人ではなく名を失ったモノであり、ダンジョンの意思が入り込んだモノだ!」
そう言えばそうだった!
「親子の語らいを邪魔するなんて酷いじゃないか」
ぷぅと頬を膨らませて抗議する父(仮)
「黙れ!貴様の親権はとうの昔に岩崎結羽人によって剥奪されている!序でにいえば夫婦共々死亡扱いされている!」
「あー…まあそうだね。あれっ?………君をスキャンできない?」
「ふっ、それくらい対策していないと思ったか!どれ、お返しだ!」
虎頭の人が組んでいた腕を外して右手を天へと掲げる。
「縛鎖!」
掲げた手をギュッと握った瞬間、光の鎖が父(仮)を縛り上げた。
「あれっ?阻害できてない?縛られちゃったけど……あれっ?転移できない!?」
どうやら攻撃されてもどうにか出来るよう小細工していたのも通用せず、完全に封じられたようだ。
「とぅっ!」
虎頭の人が3階から跳んだ。
もしかして、サーベルで一気にトドメを?
僕は少し距離を取ってその行方を見守っ───
「ティーガルフック!」
ボグンという凄い音と共に父(仮)の上体がちぎれ飛んだ。
サーベル使わないのか!
いや、会場を傷付けないと言う意味ではありがたいんですけど!
「「ねこパンチだ!!」」
課長と巽さんも同時に突っ込んだ。
「違う!ティーガルフック…虎パンチでありねこパンチなんて軟弱なモノでは断じてない!」
いやちょっと待って!上半身を吹き飛ばして…アレ?
父(仮)の下半身はサラサラと黒い砂となって消えていった。
「…えっ?ということは、ニセモノ?」
「ニセモノというよりも、分体だ…うん、気配は無いね?」
そう言って虎のマスクを剥がしたその人は…
「天之御中主様?…なんで?」
天之御中主様だった。
「君のお兄さんに頼まれてね…恐らくそろそろ接触を図ってくるはずだからってね。ただ、絶対に本体は来ないはずだから姿を隠した状態で始末して欲しいって」
天之御中主様はいつもの姿に戻りながらこれまでの経緯を話してくれた。
どうやら1階食堂で待機したり周辺のパトロールをしながら出没ポイントをチェックしていたらしい。
そして配信でこの周辺で見たと言う情報を得たため、念のためにと張り込んでいたらしい。
「いやぁ…流石としか言えないよ。ダンジョン化しかけているここを無効化した挙げ句聖域程度に抑えて人が普通に入れるように調整なんて…とてもとても…」
あっ、なんか遠い目をしてる…何かごめんなさいっ!
「しかし、本当にこれで彼がいないことを悟らせずに…っ!?」
ギィンッ
僕の自動迎撃が反応し、何かを弾いた。
『良い情報をありがとう。そっかぁ…結羽人居ないのかぁ…うん。結羽人がくる前に家族は確保した方が良いイイイイぃぃ』
ボロボロと上半身も崩れていく。
「気配は確かに消えたのに、厄介だな…だが、うん」
天之御中主様はニヤリと笑った。
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