893話 ワーカホリックは煩悩か否か
「えっと、何故出禁に?」
「仕事しすぎだと。あと、仕事作りすぎたとも言われました」
「あー…私と似た匂いがしますよ~」
「あー…だからどこかで見た事があると。最近のここの神様方と同じ気配だったからかぁ」
廣瀬お姉さんと佑那が頷いた。
いや、あーたら…
「出禁になっていても今この状態であれば入ることができるのでは?」
「私限定で入れないように結界が張られているので無理です」
「いや貴方本当に何をしたからそうなっているんですか?」
「衆生を救うお仕事なのでそれはもうたくさんあるのですよ。序でに役職の資格を取得するのも忘れずに…と色々していたら各方面から「修行と仕事どっちが大切だ!?」とか、「資格マニア、いい加減にしろ」など色々言われまして…私のクライアントが多すぎるから仕方ないのだと思うのですが、それに私は仕事イコール修行なのでどうしようもないんですよね」
ニコニコしながらそんな事を言う資格マニアなワーカホリック。
これはアレだ。
部下や関係者を巻き込みながら仕事をするタイプだ。
しかも下手に変化の力があるから他の方々にも被害が及ぶというトンデモタイプ。
仕事ができる人間だけど、それ以上の仕事が常に舞い込んでくる挙げ句役職名勝手に名乗って仕事引き受けてくる超厄介なタイプだから出禁になったと…
「労働意欲って煩悩カウントされないの?むしろ仕事地獄やら書類地獄で他が別の欲を持っている?」
「……あー、十王様方が書類で死にかけていたのは…」
そこまで言いかけて廣瀬お姉さんは真顔になる。
「あの、観自在菩薩様…もし欲界に入ることができればなんとか出来ますか?」
「ええ。他化自在天向けの決裁書類含めお仕事もたぁぁぁくさんありますから」
あっ、仏様が見せちゃいけない黒い笑みだ。
「それで、欲界に入る方法とは?」
「すぐに向かいますか?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「では───」
廣瀬お姉さんは
そう言うと扉を形成した。
「どうぞ。この扉の先は冥界であり地獄への道、十王の御座す場所です」
「えっ?君はどうしてそこへの道を?」
「定期的に十王様方の書類整理をしているからです」
「…もしかして、10年位前からかな?」
「そうです」
「君かぁ!いやいや最近各方面からの書類の中で、閻魔王や秦広王の書類がやたら綺麗で分かりやすくなっていたのと、処理量が格段に上がっていたからどうしたのかと思っていたんだ!」
いやあの、今それどころじゃない…
「そっかそっか…じゃあ、ちょっと応援に行って視察もしてこようかなぁ!」
そう言って観自在菩薩様は扉を開けて中へと入っていった。
「おおっ!普通に入れた!じゃあ、私は応援に行ってきます!」
観自在菩薩様はそう言い残し、姿を消した。
「応援って、書類でぶん殴るのかな…」
「佑那、流石にそれはないと思うんだ」
「いえ、武闘派事務員は結構それしますよ?」
「「えっ!?」」
「書類で殴りつけて、その書類を押しつけます。逃げる術はありません」
「えっと、反乱だからそれは意味が無いのでは?」
佑那の問いに廣瀬お姉さんは首を横に振る。
「反乱であってもすべき事は多々ありますから…あと、負けて消滅なら良いですけど、書類地獄に落とされた場合はクッコロが見られるかも知れませんね~」
閉じて消えるドアを見ながら廣瀬お姉さんがニヤリと笑った。
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