872話 進んで、戻って


「うわ、全英語歌詞かぁ…アクセント間違えたら大惨事な奴だ」

『?…お父様、歌の際はお父様は言語関係なく相手に伝わっているはずでは?』

「まあ、そうらしいね。でもやっぱり歌詞はその歌詞の通り歌うのが良いから」

『…お父様。本当にこれを歌われるのですか?』

「?」

『ラブソングですか?…抱きしめてとかキスをしてとか、貫いてとか?あれ?戦闘?んんっ?』

「ぅえ゛!?………うにゃああああああああああああっっ却下却下却下あああっ!」

 部長に抗議をして協会枠を一つ減らした。


 SIDE:藤岡、巽


「課長!」

 巽が叫ぶ。

「っ!光の掃射ラン・デミュ!」

 漆黒の弾頭と光の槍が打ち当たり両者とも弾かれる。

「今までとの火力差があり過ぎる!重装救命官10名、強貫通対応でブロック!残りは吹き飛ばされた仲間の収容だ!」

 メリアの号令に重装救命官らが動き出す。

「無茶だ!」

 巽が叫ぶがメリアは前を向いたまま何も言わない。

「今すぐこの車両を前に…」

「この車両よりも重装救命官達の側が安全だし、無茶でも何でも最善を尽くしすべき事をするまでだ。もし万が一彼女に何かあればお前が行かねばならないんだ…準備をしておけ」

 光の槍を射出し続けながらメリアは静かにそう告げた。


 藤岡はほぼ勘で相手の攻撃を避けながら接近していく。

 残り7〜80メートル程度。

 しかしその距離はあまりにも長い。

 時折斜め後ろに下がりながらという変則的な動きを行うせいでなお一層藤岡はそう感じていた。

 唯一の救いは連射性能がそこまでない事ではあるものの、およそ1秒1発の連射速度、そして正確無比な援護射撃によって距離を縮めていた。が、

「!?」

 足に衝撃が走り、倒れ込む…ところを受け身をとり即座にその場から前へと跳ぶ。

 その時だった。漆黒の壁から黒い軍用トラックが猛スピードで突進してきた。

「っ!!」

 避けようにもその身は僅かだが宙に浮いた状態であり、たとえ体勢を無理やり変えて跳び退いたとしても衝突は避けられない。

 リストバンドの力があったとしてもダメージがないだけで吹き飛ばされる可能性はある。

 と、

 ドンッ

 トラックの横に何かがぶつかりトラックが横転した。

「私の後ろに!お早く!」

 トラックを吹き飛ばしたのは重装救命官だった。

「!?分かった!」

 急ぎ盾の内側に入る。と同時に、

 トシュッ───ギィィンッ

 あの音と共に盾が凄まじい衝撃を受ける。

 が、これまで音もなく吹き飛ばされていた重装救命官とは違い今度はその攻撃を弾いた。

「箱庭を舐めるなよ?我々は基本常識の外に居る。」

 何度も攻撃を弾きながら重装救命官は後方に合図を送る。

 すると盾を構えた重装救命官達が9名集まりバリケードを展開した。

「我々がそのまま押し切って5メートルまで進みます。ただ、本来の任務は対処後の爆発対応でしたのでおそらくそれまでは保たないかと思われます。

 ですが多少の防波堤にはなると思いますので確実に突き立てた後に我々の元へ飛び込んでください」

「───分かった」

「では、残り30メートル…進みましょう」

 重装救命官はそう微笑みかけてゆっくりと前進を始めた。


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