833話 治療(精神汚染無効なKEN-ZENな巫女様)


 およそ1分も経つと全て元通りになった。

 ヘラ神の傷跡も綺麗さっぱり消えている。

「あの、あれだけの淫気と言いますか、欲望?を浴びて平然としているようですが…大丈夫ですか?」

「えっ?ああ、はい!ご心配なく!僕は大丈夫です!」

「「嘘ォ…」」

 いやだからなんで!?


「この矢、少なくとも3つの欲が濃縮されて呪いとなった物ですよ?」

 フィラさんがしっかりと隔離した外から調べながらそんな事を言ってきた。

「3つなの?色欲、情欲、愛欲…とか?」

「はじめはそう思っていたんですけど情欲の中にそれらが内包されている感じですね途轍もなく贅沢です。ちょっと待ってくださいねぇ…、承認欲と、そして貪欲」

「最後のでフルブーストじゃないですか…」

 まだ大罪級の欲の方がよかった…ヘラ神、目が覚めたらキャラ変わっているとかだったら怖いんですけど?

「各欲の中に3つの欲が格納されている感じなんですね…こんな事悪魔でもちょっと…これ精霊や仙のクラスではなくて昇格神や従属神クラス以上で無ければ無理ですよ!」

 となるとやっぱり…

「裏切り者か、操られているか…」

「あのっ!」

 女神様が僕に声を掛けてきた。

「はい。なんでしょうか」

「ありがとうございます。あのような強力な呪いをものともせずに矢を取り治癒までしていただき…」

「いえいえ、私はそのために呼ばれた者ですから。では、失礼致します」

 僕は女神様に会釈をし、矢を結界などでガチガチに固めて封印及び収納してその部屋を辞した。



「フィラさん、もし矢がゼウス神に当たっていたらどうなっていたと思う?」

 廊下を歩きながらフィラさんに聞いてみる。

「可能性の話なので余り多くは言えないですが…理性が飛んで獣になります。戦闘中でしたので承認欲と貪欲により敵味方関係なく始末し自身がトップであることを示そうとするでしょうね」

 そっか。ゼウス神って猜疑心もあったっけ…うわぁ…とんでもない事になっていたのかぁ…

「皆お腹すいているからカッカするんだよ」

「純粋な権力欲を食欲に変換しないでください」

「権力行使でおかずが一品増えるとか?」

「全力で権力を得たいですっ!」

 やっすい権力欲だなぁ!?

「ゆーちゃん!大丈夫だった!?」

 パタパタとゆる姉様が駆け寄ってきた。

「あっ、ゆる姉様。処理も回復処置も終わらせたので問題無いです。ただ、あの矢がかなり厄介な物でしたけど…誰がやったのか分かりましたか?」

「それが全く分からないんだよ…かなり遠くから放たれたようでね…神かそれに近い存在だという事くらいかな」

 うーん…言って良いのかなぁ…これ。

 ちょっと考えてしまう。

「どしたの?」

「ゆる姉様。あの矢なんですけど、はじめの形状だけで考えるとインド辺りの装飾ぽかったんですよ」

「えっ?」

「あと、フィラさんとの話の中で気付いたんですが、その犯人…犯神?は神様をも欲まみれというか精神をある程度高揚させたり興奮させたり疑心を持たせたりできそうです」

「どうしてそう思うの?」

「あの矢にはそれくらいの力がありましたし、あの矢の影響でその場に居た女神様は作業出来ず朦朧としていましたよ?」

 場を浄める事すら出来ていなかったし。

「…それはかなりマズイ話だよ?相手は余り隠す気も無くなってきていると思った方が良いのかもしれないね」

 ゆる姉様が険しい顔でそう呟いた。


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