823話 神より独立を果たした者達


 SIDE:世界


 何も、無くなった。

 確かに独立を訴えたのは我々だ。

 神に唾を吐きかけ罵倒し、貴様らの時代は終わったと叫んだ奴も居た。

 巫女に対し罵倒した者もいた。

 恩を忘れ当然のことと甘受し何故もっとくれないのかと言っていた者達は神の下僕、人の世に逆行する愚か者、淫売など口にするのも悍ましい罵詈雑言を叫く者達も多かった。


 それは一人の死に損ないの日本人が切っ掛けだったのかも知れない。

「一度しかない人生、我を押し殺して自分の好きにできないなんて間違っている。死後なんて本当にあるのか分からないじゃ無いか。

 神が居るから死後がある?あれが本当に神だと?冗談じゃない。あれは悪魔だよ。俺の人生を奪い全てを狂わせた悪魔だ。だから死後もそれっぽく見せた幻影さ!」

 そう言いながらあちらこちらを彷徨い歩き、ある日路地裏で息絶えていた。

 その顔は苦悶と恐怖に満ちていたが、それはどうでも良い。

 問題はその男が撒いていった不信の種だった。

 あれは本当に神なのか?

 神は無償の愛を我々に与えるのでは無いのか?

 であれはあれは本当の神では無いのでは?

 更にあと2つの種も撒かれていた。

 それは我欲と嫉妬。

 己が良ければ他者のことはどうでも良い。

 奴は良い物を持っている。何故?許さない。

 そんな獣のような感情をむき出しにする連中が出て来た。

 そしてそれは巫女へと向き、今回軍事産業が公表した対化け物用の武器をプレゼンする際にこう言った。

「これで神々の慈悲に縋るしかない哀れな子羊ではなく共に立ち向かい少しでも人の成長を見せつけるのです」

 その企業は神に対して喧嘩を売ってはいないのだが、それを曲解した連中がこう騒ぎ出した。

「神々の手から独立して自身の力で敵を駆逐し、今こそ本当の意味での人の世を創り出すのだ」と。

 メディアはその言葉を黙殺した。

 ただ、ネットは違った。

 瞬く間にそのフレーズが広まり一種のムーブメントとなった。

 同時に似たような武器を製造した企業がより過激なフレーズを前面に出して煽りに煽った。

 結果がこの様だ。

 たった2日。

 その2日で全てを失った。

 神の慈悲であった審議の石板は消え、結界は消失。

 人々の殆どは職とスキルを失い、今更神の慈悲云々と言いながら教会の扉を叩いている。

 火薬とモノの焼ける匂いが酷い。

 ああ、神よ。

 力及ばず申し訳ありません。

 逃がすことの出来る者は何とか逃がしましたが、我等は傲慢と強欲、そして嫉妬によりその身を滅ぼすこととなりました。

 私は信徒としてあの者達の死後の安寧を祈るより他にありません───



 SIDE:神域マンション


「───「なんて毒吐いている神父さんの祈りがあったんだけど、どう思う?」というペンネームガブリンからのお便りありがとうございます」

「ジャンヌちゃん、ガブリンに突っ込み入れたら駄目?」

「廣瀬さん。突っ込むだけ野暮ってもんですよ?」

「そっかーとうとう野暮って言葉まで覚えちゃったかぁ~日本通になってきたね!」


『突然始まったみこチャンネルと思ったら凄まじいお二人で草』

『でもそのお便りが実際のことだから笑えないんだよなぁ』

『巫女様には聞かせられないね』

『真紀奈さんがジャンヌさんと普通に話ができている時点で絶対強者』

『だって兄者の関係者だぞ?強者以外の何ものなんだ?』

『それな!』


「いやぁ…最初に民間用の武器を出した企業さん可哀相ですねぇ~まあ、最初の企業に罪は無いんですが、次の企業さんはアウトでした!そこが騒いでいた所でしたし」

「因みに軍用もあるんですか?」

「調べたところ、軍用は先週から試験配備されているらしいです。ただ、私が勝手に提唱している第2階梯のモンスターに対してそこそこ有効というレベルですね~」

「えっ?小鬼とかですか?殴って何とかなる相手じゃないですか」

「モンク系聖職者なら普通にいける相手ですが、数が問題でしたから」

「あー…そう言えば先程聞いた量産聖剣プロジェクトは結局どうなったんですか?」

「280程作って世界にばら撒いて終了です。あれがあれば神聖職者も戦えますし信仰心を思念カウントして小鬼も一刀両断出来ますが…オーガや鬼に対しては普通に傷を負わす事ができる程度ですね。あとは元が普通の鋼の剣なので使用限度があります」

「武器は消耗品ですから!」

 にこやかにとんでもない事を話す2人に世界はざわめいていた。


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