796話 神棚消失、神殿半壊

 神棚は消失した。恐らく御霊入れをした神社側辺りまでダメージが行きそうだけど、そこは諦めて欲しい。伊邪那美お母さんみたいに追い打ち出来ないし。

「……」

 店員さんがゆっくりと目を開ける。

「確認ですが、後ろに神棚なんて飾っていましたか?」

「いや、事務所には飾っているがここには飾っていないぞ?」

「ちなみに神様は何方でしょうか」

「恵比寿様だ」

 はい繋がったー!


 さて、恵比寿様ですよ。

 実は2~3系統の恵比寿様がいることはご存じだろうか。

 水蛭子もしくは蛭子と書いてエビスと読むタイプ…つまり伊邪那美お母さん達の子の方と、事代主様…大国主命のお子さんのタイプ。

 そして大物主様イコール事代主様と看做し大物主様を恵比寿神とするタイプだ。

 大物主神様に聞くのは…うーん。酒樽要求されそうだから…あれ?前にせお姉様事代主様のこと普通に言ってたような…

 思考がズレた。

 話を戻すと恵比寿(蛭子神)と他の神様という系統があってややこしい。

 神話文献や縁起の話だけど、日本という大地を創り出した伊邪那岐・伊邪那美が蛭子を海へ流す。

 その後流れ着いた土地で住民が蛭子を拾い…って、土地作って原住民がいたという表記がおかしい───という突っ込みは野暮だけど突っ込みたいよね。

 ああ、また思考がズレる。

 兎も角、その事務所に祀っているのは件の蛭子神なのだろう。

「あとでで構いませんので事務所の神棚を確認してください。あと、できれば恵比寿神の系統を調べて下さい。現在神々の間でクーデターと言いますか、問題が起きていて恵比寿神は蛭子と事代主神・大物主神など源流が別れている場合があるので」

「…それは蛭子神がマズいと?」

「そうですね。一部で須佐之男命の名を騙り色々していたので…」

「…父に伝えておくよ」

 うん。店員さんも普通に戻っているみたいだし、もう大丈夫」

 僕は一礼して店を後にした。



「あの店は危険ですね」

 店を出て少し歩いたところで白城さんが小声でそういった。

「相手が本格的に日本の神様を使い始めたって事だと思うよ?」

「しかしそれは他の神々も分かっていることですよね?」

 板額さんがそう言ってきたが…把握しているのって多分粛正を終えた天之御中主様だけだと思うんだ…

「天之御中主様が全員の粛正を完遂したのか…なんだよね」

「してないよ?」

 作務衣姿の天之御中主様がストロングなチューハイ片手にコンビニから出て来た。

「「……」」

 これには白城さんも板額さんも「えっ?」って固まってしまった。

 まあ、僕はお会計している姿見えてたし、なんてタイミングだと思いはしたけど。

「これから食堂行こうと思ってね。ああ、蛭子神、生きてるよ」

 プシュッとチューハイを開けて一口飲む天之御中主様。

「やっぱりオフの時に飲むお酒サイコー!」

「いつも飲んでますよね?」

「あれ、なんだかんだ言っても仕事中。異国の神の暴走や淀み対策を分霊経由でやりながらだから」

 いや、神様完全オフって…それ大惨事では?

「というか神力が空だからなーんにもできないんだなコレが」

 そう言ってケタケタ笑う天之御中主様。

 いやそれ大惨事ですよね!?

「チェイサー代わりに水飲みますか?」

 箱庭の水を取りだして差し出す。

「いや、ダイレクトに他所様の世界の水はちょっとね…」

 苦笑する天之御中主様。

 ただ、その言葉には一言言いたい。

「確かに余所の世界かも知れませんが、僕、日本人ですよ?水があわないって事あると思いますか?」

 僕の言葉に天之御中主様が少しキョトンとした顔をし、笑った。


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