782話 世に出してはならない代物(でも出す)


「───タイムのありがたみを実感したわ」

 フィラさんが疲れた顔で戻って来たのは1時間を少し過ぎた頃だった。

「買ってきたけど、思いっきり怪訝な顔されたわ…閉店間際に求めるような物じゃないし」

「フィラさんありがとう!」

 感謝を込めてギュッて抱きしめる。

「その笑顔と抱きしめられる行為に負けるのよね…」

 抱きしめられるのが好きなフィラさんは僕を抱きしめ返してクルッと一回転する。

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい…」

「ちょ!?暴走しかけてるわよ!?」

「あー、佑那。お夕飯はさっき食べたでしょ?」

「私ボケてないんだけど!?」

 ほら、戻った。


「で、何をどうするの?湖の水を入れるとか?」

「まあ、箱庭の水を入れる…と言う意味では当たっているよ」

 僕はフィラさんからタンクを2つ受け取り、その場に置く。

「マイヤ、リムネー、ちょっと来てー」

『『パパ!お父様』』

 パタパタと僕の元にやってきた2人は水タンクを見て少しビックリした顔をした。

「2人にやって欲しい事があります」

 そう言うと2人はビシッと敬礼をした。

「リムネーはこのタンクに川の水を入れてください」

『承りました』

「マイヤはこのタンクの補強をしてください。使うのは神聖結晶と水面銀です」

『パパ、それ大丈夫なの?』

 マイヤが首をかしげる。

 前に兄さんやユルフテラ様から言われたしね…でもそんなに量を使うわけではないから多分問題無い。

「神聖結晶は2つまで、水面銀は…前にマイヤが龍神神社の側で岩を割ったときに取った物を使って良いよ」

『うんっ!がんばって作るよ!』

『では私は空いているこの容器を使い水を汲んできます』

『リムネーお願いねー』

『はいっ!』

 2人は早速作業に取りかかるようだ。

「佑那はちょっとここから避難した方が良いよ」

「確かに、このままだと死んじゃいそうだし」

「私も影の中へ避難します」

 佑那は家の中に入り、フィラさんは僕の影の中へと入ってしまった。



 ───とんでもない物が出来上がった。

 怖いので鑑定しません。ええ、しませんとも!

 水タンクは形状だけで素材がなくなっているっぽい。

 透き通るライムグリーンの容器の中は水が並々と入っていて───

「ねえリムネー、もしかしてだけどこの容器、予想以上に入る?」

『はい。5杯分…5000リットルは入れています』

 そっかぁ…マジかぁ……

「うん、2人ともありがとう。助かったよ」

『『えへへ~』』

 2人とも僕に抱きついてきて嬉しそうに笑う。

『パパ、コレどうするの?』

「んー…ゆる姉様に渡そうかと思うんだ。ゆる姉様の世界がダンジョン侵攻受けているみたいだし」

『ではこちらのタンクにもお水を入れてミツルギ様にお渡しするのですか?』

「あー…その方が良いかもね」

『じゃあこれも同じようにしても良い?良い?』

 マイヤがおめめキラキラして聞いてきたよ…Noとは言い辛い。

「じゃあ、お願いしようかなぁ」


 斯くして世の中に出してはならない危険物を2つ、危機的状況という言葉を言い訳に世に解き放つべくゆる姉様とミツルギ姉様へメッセージにそれらを添付して送りつけた。


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